憎しみは雪のように

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 翌日マキコは私の家にやってきた。お通夜やお葬式に行きたいという私を、彼女は冷酷なまでに止めた。愛人であるあんたがどの面下げてお参りするのかと言うのだ。それにもしかしたら大林の浮気に彼の妻が感づいている可能性だってある。顔を合わせて修羅場にでもなったらどうするのだとも言った。  確かに葬儀でそんなことになったら亡くなった大林も浮かばれないだろうと思い、不承不承親友の忠告を受け入れることにした。彼女はお墓参りもやめるようにと言ってきた。家族や親族と鉢合わせするかもしれないからだ。それにも私は首肯するしかなかった。  あれからもう一年が経つ。その間マキコは慰めてくれたり、なにかと相談に乗ってくれたりもした。おかげで心の傷も随分癒えた気がする。足が遠のいていた公民館にもこうして久しぶりに立ち寄ることもできた。 外から陶芸教室を覗いてみる。今も変わりない様子だ。ただ、そこに大林の姿はなく、中年の女性が教えているのが悲しかった。  こんな雪の中、ここまで来たのには理由があった。彼の一周忌に、お墓参りをしようと思い立ったからだ。一年経過しているのだから、もうそろそろ大丈夫だろう。  ただ私は彼のお墓の場所を知らない。調べれば彼の家の電話番号くらいはわかるだろうが、まさか奥さんに墓地の住所を訊くわけにもいかない。カルチャースクールの事務室なら、何がしかの手がかりが得られるのではないだろうか。もしかしたらお通夜や葬儀に参列した人がいるかもしれない。そう考えたのだ。  ところが、対応に出た事務員の言葉に私は耳を疑った。 「大林さんが亡くなった?なにかのご冗談ですか?」  一年前、大林は亡くなったのではなく、一身上の都合でここの講師を辞めたと言うのだ。  辞めた後に亡くなったのではと訊ねても、そんな話は聞いていないと言う。  混乱する私はその足でマキコの家に向かった。真相を問い質すためだ。  彼女のマンションの前には見覚えのある車が停まっていた。思わず電柱の陰に隠れて見ていると、エントランスから出てきたマキコがその助手席に乗り込んだ。  私の中であの日の行動が甦る。一年前のあの日、私は大林といつものように陶芸教室のあとに食事ヘ行く約束をしていた。ところが急に予定が入ったからと言ってキャンセルになったのだ。仕方なくマキコを誘ったが、彼女にもまた用があると言って断られた。そしてその夜に彼の訃報が。  あの時からずっと、二人は私に嘘をつき通していたのだ。  走り出した車とすれ違いざまに運転手の顔が見えた。ハンドルを握っていたのは、笑顔の大林だった。  今度こそスリップしろ。呪うように、私は降り積もる雪に囁いていた。
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