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薄片は、無限の色彩を空間の中に漂わせ、目的地も無く方向も無く、ただただ揺らめいている。ただそれが、無限に無限に限りなく空間の中に降り積もっていく。自分は、淡い光の中に溺れてしまいそうになる。
自分の前に一層神々しく輝く光が突如として現れた。いや、もうどちらが前でどちらが後ろなのかも分からない。方向や重力が支配する3次元空間とは全く別の場所にいる。いや、自分がどこか違う場所にいるという感覚もなく、自分という存在さえ輪郭を失い、この次元の全ての空間に散らばって融け合っていくといえば、少し分かりやすいかもしれない。自分の細胞壁や電子反発からなる形というものが全て秩序を壊し、グズグズと腐敗するように崩れていくのだった。ただ、怠惰な多幸感に漫然と浸かっているのみである。
そのとき、光の中から。急に稲妻の閃きのように強い意志が現れ、肉体と精神の秩序を取り戻していった。驚いたことに、それは自分の良く知っていた世界、色彩のグラスを通して見た自分がいた世界の規則をこの異次元空間に擬似的に再現してみせた。その光(実際にはそれが光であったかどうかも分からず、もっと高次元なものの何かであったのかもしれず、ただ光という言葉がそれを表すのに最も近いものだと思われた。)は混沌のスープの中から、さっきまで自分という存在だったものを何とかより合わせ、再構築し、形を与えた。その光は、自分の良く知っている言葉でこう語りかけてきた。
「お前は今、澱の中にいる。お前という人生の断片。記憶と夢の欠片。ありし日の過去とありえた過去。そしてこれから起こり得るすべての可能性の未来。その無限に降り積もる澱の中にお前はいるのだ。」
自分は、声を出すことすらできない。全ての物質はその光が支配し、すべての法則がその意志に則っている限り。
「私は、お前を狩ろうとした。だが、まだその時ではない。全ての守護精霊とその蜻蛉がごとく儚い人生の中で注がれた愛が3次元地球世界にお前を押しとどめようとする限りは。私はもう少し先を見届けることとしよう。」
そして次の瞬間、3次元宇宙のビッグバンにも近い爆発的なエネルギーが生成された。信じがたいほど強力な力で自分は引っ張られ、境界を与えられ、次元を超越し、まだ人間には理解しえないスピードと理論で、ついに熱力学法則に準拠する生命活動を再び獲得した。
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