夢の澱

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「理絵!理絵!!!」  私は、体の芯までかじかむ寒さで目を覚ました。体中の関節が悲鳴を上げている。最初にツンと病院独特の消毒液の匂いが鼻をついた。目を開けると、お母さんがぐしゃぐしゃに崩れた顔でボロボロ涙をこぼしながら、私にしがみついている。 「もう、お母さん。どうしたと。そんなに泣いて。」  一瞬、何で私がここにいるのかが分からなかった。 「どうしたとじゃないわよ!!あんた、もう少しで死ぬとこだったのよ!!丸三日お前は寝たっきりで!」  ああそうか。私、死のうとしたんだった。何やってもダメな私が、自殺まで失敗しちゃったんだな。 「理絵・・・・。ごめんね!お母さん、あんたの気持ちも考えないで、良い大学に行きなさいとか、良い会社に行きなさいとか。そんなことばかり言ってたわね。」  そっか。私が書いた遺書も見られちゃったんだ。恥ずかしいな。だって、もう会うことも無いと思って書いたんだ。だから、ずっとイヤだったこと、全部言っちゃった。またこうやって会うなんて夢にも思わなかったから。 「もういいから!あんたが生きてくれれば、それでいい。有名な会社じゃなくても、早く結婚しなくてもいいから、もう絶対に私を置いていかないで!!ああ・・・戻って来てくれて、本当に良かった!ああ、早くお父さんに電話しないと!」  お母さん。あんなにひどいこと書いたのに、怒ってないんだな。ずっと私の手を握って、離そうとしない。 「ねえ、お母さん。」 「なあに、理絵。」 「私が小さいころさ、ブドウ狩り行ったよね。」 「え、ブドウ狩り?・・・・ああ、そういえば行ったわね。でも、良く覚えてたわね。あの時、あんたまだ2歳とか3歳とかだったはずよ?」  お母さんは指で涙を吹き、チーンとハンカチで鼻を噛んで、グズグズに涙ぐんだ声で言った。 「私、会社辞める。大きな会社じゃなくてもいい。もうちょっと、自分の時間を作れるところで働きたい。そしたら・・・また皆で行きたいな。お父さんとお母さんとブドウ狩り。」 「うん!うん!また行こうね。理絵。」  お母さんは、私にしがみついて体が勝手に痙攣するまで泣いていた。私は、ぎゅっとお母さんの手を握って、ゆっくりと背中をさすっている。
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