F(エフ)星の記憶

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d77e9066-9631-45a0-9c2b-771699c429fd Chapter3(第三章) ★Boss                                  外の雨は、いつしか気配さえ潜めるように降り止んでいた。暫くして、階下の物音に気付いてか、眠気眼のBossのご登場だ。「環境エコロジー」の編集長である彼は、若干32歳にしてプロダクションの社長。このビルの3~4Fを自宅兼ワークスペースにしている。  「よう、ハル!ちょうどいいところに来たな。」 ぶっきら棒で、無茶苦茶陽気な彼の第一声が編集室に響く。 「おまえさ、確か熊哲のファンだったよな。」 何とも、意味深なその言葉!    少々、警戒気味の私の前に彼が差し出したものは、バレーのダンス公演のチケットだった。  「実は今日、映画の試写会があるんだけどさ、行ってくれないかなあ。」と迫る彼。チケットをちらつかせながら、「スポンサーから1枚だけ貰っておいたんだ。なにせ、彼が主演する映画なんだけど・・行ってくれるよな、ハル」 押し切られると反論できない私は、潜在的な職業意識に逆らうこともなく時間と場所を聞いていた。    「時間は18時。場所は松竹、2階のプレスホールだ。記事は、そうだな、クォーターページで纏めて来月の入稿!」 言い終わると、そそくさと出て行こうとする彼。私は、肝心の映画のタイトルを慌てて聞いた。彼は、振り向きざまに「エフ!」と答えると、ドアを開けて慌ただしく階下へ下りて行ってしまった。   まさか、「エフ」だなんて!不思議な符号のようなものを感じた。  その日の夕方、私は地下鉄の改札にいた。青山一丁目から銀座までメトロ銀座線で行き、銀座から日比谷線に乗り換えて東銀座へと向かう。地下鉄に揺られながら有に時間を持て余していることに気付いた私は、ふと思いついて銀座で降りることにした。日比谷線に乗り換えても東銀座まで一駅。  わずか400メートル余りの距離である。銀座から晴海通りを築地方面に向けて歩くことにした。平日とはいえ、様々な人々が行き交う街、銀座。歌舞伎座まで来ると、相変わらず賑やかな年配のご婦人方の一行に遭遇する。満面の笑みの表情が伺える。が、その笑い声は、なぜか私の耳には遠くで鳴り響いているようにしか聴こえなかった。 そうこうしているうちに、いつの間にか松竹会館の試写室前に辿り着いてしまった。未だ、人は疎らで、プレス用に設けられた座席の一番片隅に私は座った。   暫くして、クイーンの♪HEVENのメロディーが流れ、映画「F ・エフ」の銀幕が上った..                                              ★To be continued
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