羽乃編【 二人のその後】

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「出張ぉ?」 啓太は不満げに箸を置いた。 「うん。木曜日から二日間留守にするからね」 羽乃は髪を耳に掛けて、箸ですくったうどんを冷ました。 「1人で?」 「上司と一緒だよ」 啓太は羽乃を覗き込んだ。 「もしかして、スプリングコート?」 羽乃はドキリとした。 恐らく啓太の言うスプリングコートとは佐伯のことだ。 「ええーっ、もう、マジかよ。あいつなの?断れないの」 「もう行くって言っちゃったし。大丈夫だよ、心配してるような事は絶対ないから」 啓太は羽乃の左手を取った。 「これ、絶対外しちゃ駄目だからな」 指でリングをなぞって羽乃を睨む。 「外さないよ」 「金曜日の何時頃帰ってくんの」 「う~ん…上手く行けば20時過ぎかな」 「連絡くれよな。迎えにいく」 「いいよ、なんならここで待ってて」 羽乃は慌てて断った。 あの飲み会の時以来、啓太は変に誤解して佐伯を敵対視している。 顔を合わせて失礼な態度を取ってもらっては困る。 しかし啓太は、絶対行くと譲らなかった。 「出張中も必ず連絡して」 あのセフレ契約以来、妙に束縛してくるようになった啓太に戸惑う。 私はそんなにモテないんだけどなぁ、可愛げもないし。 …そういえば、羽乃ちゃんなんて呼ばれたことも今までなかった。佐伯さんくらいだ。 何でちゃん付けなんだろ… ぼんやり考えていたら、啓太が羽乃のおでこをペシペシ叩いた。 「早く食え。冷めちまうぞ」 羽乃は我に返ってうどんを啜った。 二人でソファーに座って映画を見た。 前に映画館で見たものの続編だ。 「羽乃、もっとこっち来て」 啓太が羽乃の腕を掴んで引っ張り、肩を抱いた。 そう、束縛もそうだけど、やけにくっつきたがるようにもなった。 付き合いたての頃はこうやって寄り添って、テレビそっちのけでやたらキスをしてたな。 徐々にそんなことも無くなっていったけど。 チュ、啓太が羽乃の髪にキスを落とした。 見上げると啓太が目を細めて羽乃を見下ろしている。 羽乃は今更ながらどぎまぎして俯いた。 ほえぇ、まさかのあの頃のイチャイチャ再開? 「何で恥ずかしがってんの」 「いや、だって」 「なんなの?もっとキスしたいんじゃないの」 「いや、ほら、始まったよ、観ようよ」 「駄目。こっちが先」 啓太が羽乃の顎を掴んで自分の方を向かせる。 ゆっくり近付いてくる啓太の顔を見て目を瞑った。 触れるだけで留まらず、キスはどんどん深くなっていく。 「ん、ねえ、啓太、映画…」 首筋を舌でなぞる啓太に促すが、啓太は答えず、舌をどんどんと下へ下げていく。 部屋着のパーカーのファスナーを下げて胸元に吸い付いた。 「あっ、やだ、何してんの」 啓太は吸い付いた場所をペロリと舐めて、顔を上げた。 「マーキングだよ。羽乃は俺のものって印」 どうやらキスマークをつけていたらしい。 「来週まで残るかな。消えたらまた付けなきゃな」 首まわりが広く開いた服は着れないな… 唇に戻ってきた恋人の舌を受け取りながら、羽乃は思った。
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