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(熱い…)
初夏の風が吹く見慣れない町の歩道を歩きながら、羽乃はシャツの袖を捲った。
着てきたカーディガンは早々に脱いで腕に掛けている。
本当はバンドカラーシャツの襟も開けてしまいたいが…昨晩、新たに啓太に付けられたキスマークが見えてしまうので我慢するしかない。
羽乃は隣を歩く佐伯を恨めしそうに見た。
ジャケットを脱いでオーバーサイズの半袖Tシャツで歩く佐伯は汗ひとつかいていない。
サラサラの髪を靡かせて相変わらず爽やかな様相だ。
「羽乃ちゃん、暑そうだね。時間あるし何か冷たいものでも飲んでこうか」
佐伯は羽乃の腕をさりげなく引いた。
剥き出しになった素肌に佐伯の指が少し触れて、羽乃は動揺した。
冷たいレモネードがストローを伝って羽乃の火照った口内を冷やす。
羽乃は小さく息を吐いた。
「少しは涼しくなった?」
テーブルの向こうから佐伯が訊ねた。
「はい。ありがとうございます。今日は暑いですね…こちらは気温が低いと思い込んでました」
「夜は冷えるよ。防寒対策はしといて間違いないね。でも、日差しは強いよね、羽乃ちゃんは色が白いから心配じゃない?」
その点は結構無頓着なんだけど。
「いや、大丈夫です。意外に肌は強いんで」
「…襟、緩めれば?暑くない?」
「いや、大丈夫です。この詰まった感じが背筋と連動してキチッとなるというか…引き締まるスイッチ的な、その」
佐伯はクスクスと笑った。
「やっぱり面白いね、羽乃ちゃん。…夕飯は新店舗メンバーも誘って地鳥料理店に行く予定なんだ。羽乃ちゃんも付き合ってね」
「え、あ、はい」
担当者にシステムの説明をする合間、羽乃は佐伯を盗み見た。
品出しをしながら店長に何事かを指示している。
物腰やわらか、スマート。
確かに祐奈の言う通り余裕があるように見える。
…啓太とは全然違うな。
つい比べてしまい、頭を小さく振った。
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