羽乃編【 二人のその後】

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「部屋に着いたよ」 啓太から着信が来る前に電話をかけてやった。 『よし、早かったな』 「なんなの?偉そうだね」 『何もなかった?アイツに何かされてないよね』 羽乃は少し迷ってから、思い切って明かした。 「実は、好意を持ってるって言われたんだけど」 電話の向こうから息を吸い込む音がした。 『やっぱだ!だから言ったじゃん!出張も狙ってたんだって、くっそ、上司の立場を利用して卑怯な奴だな』 「それはないと思うけど。ちゃんと付き合えないって言ったよ」 羽乃はベッドに腰掛けて足をパタパタさせた。 『本当に?ちゃんと向こうに伝わってんの』 「大丈夫だと思う」 『羽乃の大丈夫は怪しいからな』 「失礼だな」 『明日も一緒なんだろ?気まずくないか』 「そこは心配ないと思う。佐伯主任は大人だから」 スマホの向こうの啓太が黙った。 『なあ、そいつに告白されたのが数週間前だったら羽乃はどうした?』 羽乃はベッドに仰向けに倒れた。 啓太と倦怠期、もしくは浮気されてセフレ契約した頃だったら… 「あー、もしかしたら付き合ってたかも」 『マジか…』 佐伯が言っていたタイミング。 ほんのちょっとズレていたら……羽乃は左手を翳した。 あの時一度外したこの指輪、二度と嵌めることはなくアプリで販売してたかも。 『こんなこと言うと敵に塩を送るみたいで嫌なんだけど…羽乃を好きになる男は、多分真っ当な奴なんだよ。遊びでなんて考えてない』 「見た目では好かれないって言いたいの」 どうせ地味だよ。 『違うよ。良い女だって言いたいの!』 「へぇぇ、良い女なんだ?私って」 羽乃はうつ伏せになってニヤニヤ笑った。 『でも、俺の事を一番に好きでいてくれよ。繋ぎ止める努力はするから』 羽乃はベッドの上で膝下をパタパタさせながら答えた。 「馬鹿だねぇ、啓太は。意気込みすぎ。もっと肩の力抜いてよ」 『羽乃は俺に努力して欲しくないのかよ?』 「私は啓太のことが好きだけど、無理してまで一緒に居て欲しくないんだよね」 好きだから一緒にいたいのであって、一緒にいるために好きで居なきゃならない、ってのは違う。 そうなったら、きっと今度こそサヨナラだ。 『少なくとも今は無理なんてしてない。羽乃に会えない方が無理』 「うん。私も今、無性に啓太に会いたい」 『…お前、俺に今から高速に乗れとでも言う気か』 「言わない、言わない」 羽乃は笑った。 「明日、絶対迎えに来てね。一秒でも早く会いたいから」 殺し文句を囁いて一方的に通話を終了させた。
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