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「どちらかに恋人か好きな人が出来たら、当然、セフレは解消だからね」
セフレ契約の承諾を告げに訪れた啓太に向かって羽乃はあっさり言った。
「啓太はともかく、私はそんなの絶対無理だから。そうなったら、お互い一切の連絡は断つことにしようよ」
「わ、わかった」
羽乃はプルトップに苦戦する啓太の手から缶チューハイを奪い取り、指を引っ掛けた。
プシュ、と炭酸の音が立つ。
「はい、指が駄目ならモノで引っ掛けなよって」
「ありがと」
啓太は、その細い指から手元の缶に視線を戻した。
羽乃の指から誕生日に贈ったリングが消えていた。
羽乃は高校の同級生だ。
学生の頃は接点がなく、さほど話したことがなければ印象にも余り残っていなかった。
しかし、成人式の後の打ち上げで偶然席が隣りになり、話してみるとやけに気が合ったのだ。
低い落ち着いた声で飾らずに話す羽乃に、妙に惹かれた。
「天地さん、余り飲んで無いですね。体調が良くないんですか?」
高く甘い声に思考を遮られて目を向けると、後輩が心配そうに見上げていた。
香水の匂いが香る。
嗅ぎ慣れない甘い香り。
…しかし、これも悪くはない。
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