羽乃編【 二人のその後】

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「羽乃」 優しい呼び掛けに、羽乃は目を開けた。 啓太が心配そうに覗き込み、羽乃の髪を撫でていた。 羽乃は目を擦って上体を起こし、肘をついて周りを見渡す。 天蓋のピンクのシフォンの布を見て、ここが何処かを思い出した。 今更ながら恥ずかしくなり、掛け布団を手繰り寄せて身体を隠し、更にうつ伏せになって枕に顔を埋めた。 「羽乃、どうした」 「…忘れて」 「何を」 「さっきからの私を忘れて。記憶から抹消して」 「それは出来ないわー。あんなの忘れらんないわぁ…エロくて最高だったわ、俺の彼女」 羽乃は更に枕に顔を押しつけた。 「ううう…死ぬ。恥ずかしすぎて死ぬ」 「そんなこと言わずに、また降臨させてよ、エロ羽乃様」 「変な呼び方しないで」 「ねえ、どうやったら現れるの、あのエロい羽乃様、もう一度会いたい」 「知らない」 啓太は布団ごと羽乃を抱き締めて、頭に顔を擦り付けて囁く。 「教えて」 「わからないもん」 「ねえ、俺嬉しいよ。新しい羽乃の一面を見れて。あの羽乃は俺しか知らないだろ?」 羽乃は枕に半分埋もれたまま啓太に顔を向けた。 「うん」 「あー、可愛い羽乃。大好き。更に俺を夢中にさせてどうしてくれんの」 啓太はぎゅうぎゅう抱き締めてくる。 「ぜぇっーったいスプリングコートには渡さねぇから!つーか誰にも渡さねぇから」 羽乃は布団からもぞもぞと手を出して啓太に抱き付いた。 「私も。啓太は私のだから」 うほほっ、と啓太がへんな笑い方をした。 「羽乃がそんなこと言うなんてびっくりだな。なんだよ、めっちゃ嬉しい」 再び顔を擦り付ける。 「でも、今度浮気したらリングと一緒にすっぱり捨てちゃいます」 「ええっ…いや、しないけども」 羽乃はふふ、と笑って、その後小さく欠伸をした。 「眠い…」 「そうだよな、出張で疲れてたのにごめんな」 「帰ろうよ。泊まると高額なんでしょ」 「いいよ。寝な。でも朝は早めに起こすよ」 「んん…何でぇ」 「朝の羽乃とエッチしたいから」 「意味不…」 「寝起きの羽乃ってエロいんだよな」 「変態…」 羽乃はうとうとと微睡んだ。 「目がとろんとしてて、肌がこう、温かくて…」 恋人の声を聞きながら、腕に包まれながら、眠りに落ちていく至福の時。 幸せってこういうの。 永遠に続くなんて不可能かもしれないけど、願うのは自由だよ。 ねえ、啓太。ずっと一緒にいてね、ずっと私を好きでいて。 ずっと好きでいさせてね。 そう思える人に出会えた幸せを噛み締めて 羽乃は意識を手放した。 それからしばらく、啓太が“エロ羽乃様”を降臨させるために必死になったのは言うまでもない。
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