彼女にセフレへの移行を提案されました

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「もう、ストッキング破けちゃったよ」 羽乃は下着を抜き取るとバスルームに向かった。 行為を終えると無口になる啓太を知っているので、必要以上には話し掛けない。 それも有り難かった。 部屋に一人になり、啓太は獣のように欲情して羽乃を抱いた先程の自分を思い返し、顔を覆った。 飲み会の帰り、後輩に二人で別の店にいかないかと誘われた。 しかし、何故か断ってしまった。 そして、気付けば羽乃のアパートに足が向っていた。 後輩の誘いに乗れなかった意気地のない自分を慰めて貰いたかったのか? 抱き慣れた羽乃の身体で? だとしたらなんて卑怯で情けない。 セフレ契約に戸惑っていた筈の自分が、真っ先に羽乃を利用したのだ。 「シャワー空いたよ。泊まるんならリビングに布団を運ぶけど」 羽乃から声を掛けられて啓太は顔を上げた。 「何でリビング?ベッドで一緒に寝れば良いだろ」 羽乃は首を傾げてエアコンのリモコンを操作した。 「うーん、何となくケジメ?ベッドでエッチはオッケーだけど一緒に寝るのは駄目」 啓太は呆けて羽乃を見上げた。 「私の中で一緒に寝るのは恋人なの。嫌なら帰って」 バッサリと切り捨てられた言葉に啓太はショックを受けていた。 理解していた筈なのに突きつけられた気分だった。 もう羽乃の中で啓太は恋人ではないことを。 「じゃあ、もう一回ヤらせて。今度はベッドで」 羽乃はぎょっとして啓太を振り返った。 「嘘でしょ、…何かあったの?」 「別に。ヤりたいだけ」 羽乃は腰に手を当ててため息をついた。 「疲れてんでしょ?」 啓太は胡座をかいて羽乃を見上げた。 「ヤりたいって言ってんだろ、セフレだったら受け入れろよ」 羽乃は眉を潜めた。 「啓太、私はセフレになったけど、啓太の都合の良い道具になるつもりはないわよ。同意のない行為はレイプよ。どんな関係であろうと」 羽乃はタオルを投げた。 「シャワーして寝なよ。ベッドは譲るよ」 シャワーを済ませて戻ると、羽乃はリビングの床で寝ていた。 ソファーとテーブルに挟まれたスペースに横たわり、すうすうと寝息を立てている。 啓太はそっとその寝顔を覗き込んだ。 あの時間まで残業していたのだから、羽乃は疲れていたのだ。 そんなことにすら気遣えなかった。 道具じゃない、か。 恋人ですらない啓太が羽乃を傷付けてしまったことに胸が痛んだ。 それから暫く羽乃のアパートには足が遠のいた。
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