彼女にセフレへの移行を提案されました

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店から出て、二次会に向かうであろう一団の中に羽乃をみつけた。 啓太はグレージュの髪を緩く纏めた後ろ姿を追う。 ストーカーめいた行為をしている自覚はあるが、止まらない。 「羽乃!」 振り向いた羽乃は目を大きく見開いた。 周りの男女も振り返る。 隣の同僚らしき女性が羽乃に何事かを訊いて、羽乃が頷いている。 「水取さんの元カレ…」 聞こえてきた声に啓太は一瞬動揺し、歯を食い縛った。 「水取さん、もしかして付きまとわれてんの」 「羽乃ちゃんこっちにおいで」 羽乃の腕を引き寄せたスプリングコートの背の高い男がこちらを見て睨んでいる。 啓太はカッとなって足を踏み出した。 しかし、何かを察した羽乃が男を宥めてこちらへ歩いてきた。 「啓太、いったいどうしたの。さっきのメッセージもおかしかったし」 「…どうしても、羽乃に会って話がしたかった」 「明日の夜じゃ駄目なの?」 啓太はちらと背後を見た。 「あいつらとまだ飲むの」 「その予定だけど」 「…気に入らない」 羽乃は小さくため息をついた。 「ねえ、それは話が違うでしょ、私と啓太は…」 「関係ない。羽乃が男と飲みに行くのは気に入らない。触られるのも」 羽乃はじっと啓太を見た。 それから、こめかみを中指で揉みながら目を伏せて呟いた。 「わかった。ちょっと待ってて」 家飲みなら羽乃のアパートで俺とすれば良い、と啓太はコンビニでしこたまアルコールを買い込んだ。 呆れる羽乃の手を引きながら、啓太はえらく気分が高揚していた。 仕方なくとは言え、羽乃があの男を含めた飲み会の仲間より自分を選んでくれたということに舞い上がっていた。 部屋に入って直ぐに啓太は玄関で羽乃を抱き締めた。 「もー、なに?」 羽乃は戸惑いながら手を伸ばして電気のスイッチを押した。 「羽乃ぉ」 「わかったから、ねえ、靴脱いでよ」 啓太は渋々羽乃を離して靴を脱ぐ。 「もしかして、だいぶ呑んでる?」 パンプスを脱ぐ羽乃に顔を近付けた。 「酒臭いか確かめる?」 「結構です」 羽乃は啓太の顔を押し退ける。 「羽乃」 リビングへ向かう短い間も羽乃に纏わりついて名前を呼んだ。 「もお、いいから離れて、そこ座る!」 羽乃は啓太の身体を押してソファーに座らせた。
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