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「デートも旅行も最近殆んどしなかったし、キスすら無くて、たまに会えばセックスして後は家でゴロゴロするだけだったでしょ。まあ、長い付き合いだし、それが普通なのかもしれないけど…これじゃあ、セフレと変わんないなって思ったんだよね」
啓太は息を飲んだ。羽乃がそんな風に感じていたなんて、全く気付かなかった。
「いっそのことセフレになってしまえば割り切れる、思い悩むこともないかなって」
羽乃は湯飲みを両手で持って、口に近付けた。
「正直、承諾された時はちょっとショックだったけどね」
啓太は胸に痛みが走り、手で押さえた。
「ほら、啓太ってセックスの後は無口になるでしょ、ベッドでも背を向けちゃうし。最初の頃はあれが悲しくて。今はそういうもんだと理解してるけど…朝になったら毎回足を絡ませて密着してるしね」
羽乃はお茶を啜った。
「…それすらもね、思い返したら、辛くなっちゃった。啓太にとって私は性欲を満たしてくれる抱き枕みたいなもんなのかなって」
啓太は顔を覆った。
そこまで羽乃に思わせていた自分が情けなくて涙が出そうだ。
胸が張り裂けそうに疼いて呼吸もままならない。
「ごめん、羽乃、気付いてあげられなくて、ヤバい、しんどい」
「…本当に馬鹿なんだね、啓太って。単純というか。まあ、そんなとこが好きだったんだけど」
過去形にしないでくれ。
「お互いもう少し距離を置いた方が良いんじゃないかな、一旦リセットして…」
「それは駄目!」
啓太は羽乃の腕を掴んだ。
「これ以上羽乃に会えないとか無理!…それに、あのスプリングコートの男、絶対羽乃を狙ってる。今の俺じゃ彼氏特権も行使できないじゃないか!」
羽乃はたじろいだ。
「誰のこと言ってんの?居ないよそんな人。ちょっと落ち着きなよ」
啓太は堪らず羽乃に抱きついた。
「わっ、お茶、お茶溢れるよ啓太」
「お願い、挽回させてくれ。もう羽乃を不安にさせないから。羽乃が好き、もう本当に好き過ぎてつらい。付き合い始め以上だこんなん」
啓太は羽乃にしがみついた。
柔らかくて温かい羽乃に触れて更に思いが膨れ上がった。
離せるわけがない。
こんなん。
「…もう…わかったよ」
「絶対もっと大切にするから」
「そんなに意気込まなくても良いよ。極端なんだから。やり過ぎて疲れちゃうのが目に見えるわ」
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