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「セフレにならない?」
浮気がバレた日、羽乃は俺に提案した。
「誰と遊んでも寝ても良い、もう、疚しくも窮屈な思いもしなくて良い、セックスしたくなったら連絡すれば良いの。…すごくお得な関係でしょ」
考えてみて?
羽乃はにっこり笑った。
羽乃と付き合い出したのは二十歳の頃。
あれから5年。
長い付き合いだ。
余計な気を遣わなくて済む分、沸き立つような恋情は感じないし、居心地は良いが、退屈とも言える。
年齢的にも新しくやり直すにはお互い良いタイミングなのかもしれない。
彼女という枷が無くなれば、据え膳を食わずに惜しい思いをする事もないし、良い女を目の前でみすみす逃す事もない。
…と考えてみたが、思ったより心は晴れない。
今回はしこたま酔った上での失態で、正直殆んど覚えていない。
しかし、浮気には違いない。
責められる覚悟を決めて頭を下げる啓太に対し、羽乃は問い詰めることも怒ることもせず、それどころか笑って恋人からセフレへの移行を提案してきた。
何せ5年の付き合いだから、これまでも何度か別れの危機はあった。
人前で大喧嘩をしたこともあれば、数ヶ月間、音信不通になったこともある。
それでも、その度に話し合って関係を続けてきたのに。
「啓太と違って、私はほぼ啓太しか知らない。それって不公平だし、勿体なくない?」
ふと、羽乃が以前漏らした言葉を思い出した。
不実な啓太に愛想を尽かし、他の男を知りたくなったのかもしれない。
もしそうだとしても、羽乃を責めることは出来ないと思った。
「天地さん、今度の部署の飲み会どうします?」
上目遣いで話し掛けてきたのは、部署の後輩。
何を隠そう先日酔った勢いで一夜を共にした相手だ。
あからさまなアプローチはなかったが、好意を向けられていることには前々から何となく気付いていた。
声も顔も可愛いし、気遣いも仕事も出来る。
申し分のない相手だ。
「ああ、出席にしといて」
もしかしたら、二度目もあるか?
啓太は淡い期待を抱くことを自分に許した。
もう、羽乃に対して罪悪感を感じる必要はないのだから。
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