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龍の列車は夜を飛ぶ 13
龍の列車は夜を飛ぶ 13
『しゃしょーさん、お仕事お疲れ様。昨日は診察ありがとう。来週お兄ちゃんが来る時用に、辰沙はまたレコード買うてたで。夜兎も遊ぶの楽しみ』
いつもより遅い時間の夜兎さんからの連絡に、俺は自然と頬が緩む。
昨日の午後まで俺達は一緒にいて、その前の夜は寝不足であったから、きっと昨夜は良く眠れたろう。
俺はといえば戻ってからも、気を抜けば、夜兎さんの白くて柔らかな肢体が目の前をちらついて、昨夜も夢見心地だった。
『夜兎さんこんにちは。俺も一緒にいられて嬉しかったよ。来週、李天を連れていく日は生憎休憩なしで走らなきゃなんだけど、帰りには少しだけ、待てるかもしれない』
『こっちは、お迎えは辰沙が行くから夜兎は広場まで行かれへん。お見送りも、その日は行かれへんかもね。ごめんなあ』
にやにやしながら返信をしたところ、夜兎さんからはちょっと残念な返信が来てしまった。
「えー」
おじさんの箱を両手で握りしめ、柱に頭を打ち付ける。
そりゃお前らをくっつけるつもりでこっちもごっこを始めたつもりだけど、俺も来週夜兎さんに逢いたいよ……。
心がすっかり萎れてしまったが、
『そっか、じゃあ、仕方ないね』
『うん。二人ともうまくいくとええね!どんな様子だったか、あとで教えるね』
夜兎さんからの返信がこれまた優しすぎて、俺はもう一度柱に頭を打ち付けた。
夜兎さんは本当に優しいなあ、心から二人を応援してるんだな……。
俺は感嘆し、元々は辰沙と李天の二人をくっつけるために、俺達も付き合っているふりを始めたのだから、まあ、俺達が本当の恋人同士になれたのは、あの二人のおかげでもあるのだと思い直した。
できる限りのことはしてやるか……。
++++++++++
当日、李天は朝から緊張していた。
背広姿で両手にお土産袋を吊るして、
「ど、どっか変じゃない?大丈夫?」
紅潮した頬で俺に訊いてくる。
「いや、そもそも遊びに行くのに背広ってのが……」
「うわーーーん!!だって、可愛い服なんて持ってないんだもん!夜兎みたいに!!」
茶化していると、突然夜兎さんの名を出されどきっとする。思わず顔を見合わせ、半泣きの李天をまじまじと見る。
己と辰沙の関係を、俺と夜兎さんになぞらえる時点でもう、李天は自分の気持ちに気付いてるんじゃないのかな。そうは思うが、
「ま、お前はそれが一番似合ってんだから、良いんじゃないの。さ、出発するぞ」
「う、うん」
「今夜は泊まりなんだろ?迎えには行かなくて良っか」
「な!そ、そんな訳ないだろ!!」
かまをかけてみると、大袈裟に否定された。
辰沙の奴、堅物そうだからなあ。
嵐山国へ到着し、荷物を手渡したのち、このまま一人残して大丈夫かと思ったけれど、李天は列車を最後まで見送ってくれるものだから、列車は西原さんのお屋敷の方角へ向かうことはできなかった。
『お兄ちゃん無事着いたよ!夜兎のお庭を見せたかったんに、辰沙に邪険にされてん』
ほどなくして、ぺかんと夜兎さんからの連絡が届いた。
お、ちょっと意外な辰沙の態度。
『そっか、ありがとな。辰沙も早く二人きりになりたかったから、夜兎さんにそんなことをしたのかもね』
『ん。西原にも、二人の邪魔したらあかんやろって言われてん。二人も夜兎たちみたいに早う仲良うなるとええね!』
へー、意外。
夜兎さんの話からしたら、辰沙は思いの外積極的なのかも。一見したら普段と変わらない仏頂面でも、実は李天と逢えて緊張してたり、嬉しかったりするんだろう。
あの時、俺に「我慢してるのが馬鹿馬鹿しくなった」と言ったように。
色々あるのは判ってるけど、二人も早くくっつかないかな。……ダブルデートとか、お互いの恋人自慢とか、してみたいぞ。
『あの、やっぱり俺も、一目でも良いから夜兎さんの姿が見たいな』
二人を微笑ましく思いつつも、俺も羨ましくなってきた。
『ほんと?夜兎も!お兄ちゃんのお迎えの時、お屋敷の上を通れる?夜兎、お庭に出て手ぇ振るね』
ねだってみると、夜兎さんも同じように思ってくれてたみたいで、俺は胸がどきどきし始めた。
隙間もないほどくっついて、傍にいるのも嬉しいけど、遠くから一目見るだけでどきどきできるのも、幸せなことなのだ。
『あったかくして、待っていなよ』
『ん。しゃしょーさんのくれた脚巻きしとる』
今はまだぎこちない二人の心配をしつつ、便乗して自分も恋人の姿を拝もうとしてしまう先輩なのだった。
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