編みかけのマフラー

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 それは夏も終わり──暑さが居座る、九月下旬。  窓を全開にし、シャツの腕とズボンを捲し上げて、ウチワをあおいでいるのは、そう。僕だよ僕。  新妻雅(にいづままさし)34歳である。  いい加減、扇風機くらい買ったらどうだい?  どこからか聞き覚えのある声がするが、どっこい、僕は日々の食費と家賃で散財し、こうして氷の入った桶に足を突っ込んでいるワケさ。  暦の上ではもう秋なんだけど、この暑さはいつまで続くのだろうね。  ……残暑か。 「残暑(ざんしょ)が厳しい、ザンショ」  一世紀前のオヤジジャグをつぶやき、一人でふふっ。と笑ってしまった。 「……」  そして、彼女と目が合った。  いや、合ってしまった。  我が新妻探偵事務所の、従業員で、事務員で、秘書である、樹原愛理(きはらあいり)、26歳。  僕のつぶやきに対し、ぴくりとも表情を変えずただ無言で僕を見つめている。
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