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駅から学校への道のりはそう遠くない 枯草ばかりの川沿いを歩きながら考える。 どうやってコレを渡そう‥ ずっと手渡しの場面を想像してるけど 全然イメージ固まらず 今 考えてるやり方で成功するのかなあ。 好きなヒトにチョコ渡して それを受け取ってくれたら そのあとどうするの? リサーチした参考資料は漫画や映画。 把握した方法は リアリティに欠けた内容。 今の時代に合わないような…    『プランA:古風に行きましょ!下駄箱作戦!』 つまり 相手の下駄箱に突っ込むやつ これ、すでに何個かの問題点が浮かぶ。 まず衛生面。 一生懸命作ったチョコ IN 下箱箱? まじで? えーー!! ありえない! なら 妥協してロッカー作戦。 けど 勝手に人の個人ロッカー開けるのは  個人情報に抵触じゃない? そんで そんなことしたら 『お前 勝手にロッカー開けんな!』とか 『下駄箱にチョコとか食えるか!』とか  冷ややかな視線とともに言われたら… ゴクリと のどが鳴る。 ちょっと怖すぎ。 そんなこと全否定で言われたら‥ ダメだ。 もう一生浮上できない。 背中にスーッと冷たいものを感じた。 プランA は 危険信号の点滅しかない。 けど 朝も早よから動いたのは このプランを実現するため… 今、同じ方向に向かってる皆が その仲間だと思いたい。 だけど ジーッと見ると  たくましいふくらはぎ…… もしかしたら  運動部女子の朝練組なのかなあ 小さく深呼吸する 不安だ もう泣きたい やっぱ 渡すの無理かも まだ何もしてないのに  朝から泣きそう! 校門を抜ける。 中庭に雪が残ったままで 誰かが作ったらしい融けかけた雪だるまと目が合った。 覚悟決めなきゃ。 あと数メートルでミッション現場。 やるしかない! 私!! こそっと ささっと  やるしかないよね!! 昇降口前の段差に躓きそうになるのを乗り越えて 問題点はともかく 気合は入れよう!と 飛び込んだ下駄箱前。 「あれ?ひよたん? おはよ!!」 「あ、風帆(かずは)ちゃん?」 飛び込みながら  片手をサブバックに突っ込んでいた。 速やかにチョコを下駄箱に入れようと体勢的には万全だった。 スピードも問題なかった。 だけど 予定は未定だ。 想定内だけど想定外。 クラス評議員の彼女が 黒のスニーカーから 上靴に履き替えてた。 「ひよたん 大丈夫?」 「な、何が?」 声が裏返る。 「あれ?声、どした?ってか  めっちゃ顔白いよ?」 「え、ええっと」 心臓が飛び出しそう! どうなっちゃうの?! わたしーー! 「大丈夫??」 心底心配そうに尋ねてくる風帆からの問いかけに いかにも走ってきた雰囲気を演じつつ とりあえず深呼吸。 「いや、あの…ウーパールーパーが死んでたらどうしようかと思って」 「ウーパールーパー?」 今度は風帆の声が裏返る。 それに乗じて一気に畳みかけ、 「金曜日 わたしのウーパールーパーのお世話するの忘れちゃって!!」 生物部部員の 咄嗟に出た繕いにしては上々だ。 「生物部?」 「そうそう!」 「週末 雪降ったから寒いもんね。 それは心配。」 「うんうん 焦っちゃって」 「これからお世話するの?」 「うんうん そうゆうこと」 あの子たちのお世話は  ちゃんと金曜日に済ませてる。 沈黙は避けなきゃ! 「風帆ちゃんこそ早いね?」 困ったときは質問返し。 何事もなかったかのように 上靴へ履き替えながら 彼女に尋ねた。 「チョコレート計画の準備だよ」 と おもむろに  私の持っているサブバックより 一回り大きいサイズのバックから ガサガサっとレジ袋をチラ見せしくれる。 「あれか」 「そうそうあれの準備よ」 その時 昇降口前を 足並み揃ったサッカー部のランニング音が通り過ぎる。 足音に警戒した風帆は  サブバックのファスナーを閉めた。 「バレンタインって女子ばっか忙しいね。」 「ほんと私もそう思う」 どちらともなく目を合わせて笑った 笑いながら 改めてバレンタイン前から今までを振り返る。 ほんと女子ばっかり忙しいな… 離れていく彼の下駄箱を背後に感じながら プランAは、失敗に終わった。
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