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【17:35】
ウーパールーパーは元気だった。
生き物たちのお世話を手短に済ませてから、ほかの子より先に下校した。
てくてくと入学式から歩き続けた駅に向かう。
見慣れた風景。
春に桜も菜の花も咲く。
今は
高校生活も楽しい。
毎日毎日楽しくて
でも
今日は いつもよりずっと
背中のリュックが重かった。
サブバックから見える小さな紙袋が痛かった。
渡せなかった。
渡す勇気がなかったんだ。
チョコを作る間 わくわくしたことも
渡すタイミングを考えてどきどきした事も
すべてがフリーズした。
ほかの子とうれしそうに笑った咲也くんの笑顔を見てしまったから
もう無理って思ったんだ。
できるなら
時間を全部巻き戻して
バレンタインチョコあげようと決意する前まで戻りたい。
なんでバレンタインなんてあるんだろ。
好きですって言って
もしダメなら
全部全部リセットされてしまうのに…
みんながみんな
ちゃんとチョコを渡せるわけではないのに…
…
まだ泣いちゃだめだ。
遠くから小学生の声が聞こえる。
渡せなかった。
それだけで 泣く理由は 十分だ。
渡したかったのに渡せなかったのは
全部 自分の勇気がなかったせい。
駅までが遠かった。
ほんとは 1人っきりになりたいのに
全然 風景が変わってないような気がした。
月曜日のバレンタインは最悪。
今日から長い長い1週間が始まる。
何もなかったかのように
明日から
平静を装いながら過ごさなきゃいけないんだ。
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