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テレビ、タイヤ、メタルラック、白い袋の群れ。
思わずガラス戸から外を見たが、何もない朝の街が広がっている。昨日降ってきたそれらは当然そこになく、そのまままとめて画面の向こうで積もっている。
まさか。どこにでもあるごみではある、けれど。
見つかった男性たちの命に別状はない。ただ彼らは巻き込まれた被害者ではなく、不法投棄の主犯と見られていますと続ける声を遠く聞きながら、伊鈴の頭には男の言葉が蘇った。
誰かに拾われたらやり直せないからさ。ちゃんと捨ててもらいなね。
まさか、そういう?
伊鈴はそうっと手を伸ばして、ポケットから抜き出した犬を目の前に掲げた。つるりとした黒い目には伊鈴の顔が映っている。
そういえば、高校の近くに神社かお寺があった。お焚き上げをしてくれるのだとか、クラスメイトが話していた気がする。
それでちゃんと、お別れできるだろうか。
会えなくなっても伊鈴が覚えている限り、一緒にいた時間が消えるわけではない。いや、たぶん、忘れてもきっと。
「いかがでしょう」伊鈴が心の中で問いかけると、黒い目の奥が小さく笑った気がした。
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