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小学校の頃、初めてお小遣いをためて自分で買った、少々ぶすくれたような顔の犬。手放しで可愛いとは言い難いその顔がどうしてか気に入って、中学になっても通学鞄にずっとぶら下げていた。けれど太陽や雨風、砂に晒されたせいですっかり色が変わり、チェーンも切れかかっていた。
洗っても落ちない汚れに子どもっぽいデザイン。もう連れて歩かなくても――新しいものにしてもいいと思ったのだ。伊鈴は高校進学を機に、彼を部屋の机に移動させた。
机の上に置いたまま、気にしていなかったからかもしれない。何かの拍子に手でも当たって転がり落ちて、ごみ箱に入ってしまったのだろう。
だとして、ここにあるとは思えないけど。伊鈴は平らな雪を確かめて、目の前の地面にそっと足を下ろす。相変わらず溶けない雪は、耳を澄ませるとしゃくりと音を立てて砕けた。一歩、また一歩と踏み込んで、開けた場所に伊鈴はしゃがみ込む。
手のひらに冷たさを伝えるだけの雪は、簡単に脇に避けられた。懐かしい。砂場で遊んでいた頃を思い出しながら、伊鈴は雪をどけていく。
大きくなるにつれて遊びは変わっていく。それは持ち物も同じ。善悪に関係なく至極当たり前のことで、忘れ去ってもまた思い出してもいい。
それなら一体、私は何を気にかけているのだろう。伊鈴はすっかり冷えた手で、きゅ、とそばの雪を握った。
悲しい。痛い。苦しい。辛い。
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