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ていうか調べてから来なよね、馬鹿じゃないの、と再び吐き捨てた口を伊鈴はただ見上げてしまった。初対面ですけどと思いながらも、あまりにストレートすぎて怒りもわかない。
また外から重い音が響いて、男のため息が重なった。
「死にたくないのなら外には出ない。窓が見えるからそこ座る」
伊鈴は素直に頷いた。唐突過ぎる状況に思考を奪われていたせいかもしれない。どう考えてもおかしな状況だったが、怖さも危なさも不思議と感じなかった。
縦長の木材を繋げた、公園でよく見るような木のテーブル。二脚の椅子にはパッチワークと呼んでいいのか、不揃いの小さな布を縫い合わせたカバーがかかっている。手作りだろうか、と伊鈴は男が消えた部屋の奥を見ながら腰を下ろした。
カーテンの引かれていない窓の外はもう白くない。代わりに大小さまざまな影と音が降っていた。男がカップを両手に戻ってきて、ひとつを伊鈴の前に置いて対面に腰かける。
「この街は夜になると、いつも何かが降ってくるんだよ」
「何か」
「ああいうのとか」
男が顎で窓を示す。
長方形。ドーナツ型。直方体。袋。袋。影が降っていく。
「今日はひどい方だね」
カップは温かい。手元に引き寄せると、ふんわりと香ばしさが立ちのぼった。昼間であれば穏やかなお茶会の光景に、いまいち現実味を掴めないまま伊鈴は耳を傾ける。
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