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隣で眠っていたヴォンが、目を覚ました気配で目が覚めた。続けて、小さい唸り声が聞こえる。
自分も起きあがった。腰にさした短剣に指をかける。この生命の感じられない場所に、敵がいるのだろうか。
しばらくして、凪のような風がたった。目を凝らしても、周りには何もない。音もない。
それでもヴォンは、そう遠くない一点を見つめ、猟犬の顔で小さく唸り続けている。
その一点は、突如として現れた。風が円を描き、積もった灰が火花のごとく散り始める。
そして、現れた。灰で出来た身体を持つ、大型犬の頭ほど大きさの女性。彫刻のような美しく鋭い顔に、細やかな手の指足の指——。
彼女はこちらを一瞬確認し、何も見なかったかのように踊り出した。自分たちの文化にはない、くるくると回る踊りは、彼女の透き通るような灰色の衣服に曲線を描き続ける。
彼女が動く足元には、足跡も灰の埃もたっていない。体重を感じられないその身体は、この世の生物ではないと感じた。灰の精霊か何かだろうか。好奇心と恐怖で、心臓が忙しくなる。呼吸も浅くなる。
どれくらい彼女の踊りに魅せられていたのだろうか。短剣にかけていた手はだらりと下がり、隣ではヴォンが立ち上がり大きく吠えている。長い尾は丸まり、脚の間を通って腹にぴたりとくっついていた。
ヴォンを落ち着かせようと、彼の背を撫でようとして、大変なことに気がついた。
たった1人だった小さな灰色の彼女と、全く同じ容姿の者たちに、囲まれていた。数十、いや百を超えているかもしれたい。ばらばらと同じ踊りをし、その数は見る間に増え続けている。増えるたびに、風の円と灰の火花が飛び散る。
猟犬が吠えるのをやめた。完全に、彼女たちに囲まれてしまった。
空を仰いだ。意識が灰色になった。
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