黒髪に恋、瞼裏の恋

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 最初は見ているだけで良かった。陶酔し、ほうと息を吐く日々。半月を過ぎれば満たされなくなり、より強い刺激を必要とした。  心がささやいている。女子生徒が欲しいと。  僕は自身を納得させるために言い聞かせた。手を出すのは犯罪だ。それに、欲しいものは手に入らないから良い。憧れは陳列窓に飾られているうちが華だ。手元に置けば理想との違いにがっかりする。このままが良いのだ。  眺めるだけなら何を考えても自由。夢想は広がり続けた。彼女は頭脳明晰な高嶺の花。愛を与える女神かもしれない。空想はエスカレートする一方だ。  ある夜、夢を見た。すぐ傍に女子生徒がいる。焦がれる背中がそこにある。僕は慎重に黒髪へ五指を差し入れた。しっとりと、滑らかな絹糸がさらさら流れる。想像通りの艶めかしさに驚き、目が覚めた。  恐ろしくも甘美な夢だ。  行き過ぎた空想は日常に支障が出る。そろそろ止めなければ。分かっていながら、僕は思いを馳せた。  彼女とは学年も違い、受け持ちでもない。接点はなく、話す機会は見つからなかった。卒業するまで一言も交わさない可能性もある。会えるのは夢の中のみ。交流できない寂しさを埋めるように、幻想を抱き続けた。
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