黒髪に恋、瞼裏の恋

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 新緑が眩しい季節は過ぎ、夏がきた。暑さから、校内を行く生徒の髪型は変わり始める。一つにまとめる者、ショートヘアーになる者。彼女は、今日も髪を結わずに颯爽と歩く。  降り注ぐ日差しは黒髪を(まゆずみ)のヴェールに変える。隙間から覗く首筋は蠱惑的だ。静脈の透ける肌。玉の汗が甘やかに伝い、制服の襟にじんわりと染みる。  眺めていると腹の底がざわざわとして、良くない欲求が顔を出す。首筋に鼻を寄せたい。花の香りを楽しむように、彼女の存在を確かめたい。そう思うたびに、欲望を必死に抑えた。   いつか衝動的に手を出してしまうのではないか。そんな不安に駆られた。幻想は自己満足だ。彼女を巻き込むわけにはいかない。  それからは必死に目を逸らし続けた。心落ち着くまで、黒髪は我慢するしかない。刺激のない、のっぺりとした日常が過ぎた。
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