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一房の毛髪にあらゆる感情を見た。彼女への憧れ、恋慕、慈しみ。降りつもる想いははらはらと舞い、冷たい床に落ちた。
感情は西日に当てられ、ぎらぎら燃え始める。裁きの焔だ。教師が生徒に恋をした罪。叶わぬ想いを満たすため、幻想に溺れた罰。
良い歳の大人が情けない。薄汚れた恋は、惨めで、哀れだ。炎を映す瞳が滲む。この双眸が全ての元凶だ。黒髪に惹かれた眼が憎い。このまま燃えて、なくなってしまえ。
秘めたる想いを知らぬまま、彼女はしゃがみ込む。毛髪をつまみ白い掌に乗せた。
「夕陽にかざすと宝石みたい。切り落とした髪は捨てるだけだと思っていました。気づけたのは先生のおかげですね」
綺麗な笑顔を前に、確信した。彼女は黒髪に見合う心の持ち主だ。都合の良い空想で汚してはならない。夢見る相手ではないのだ。
この数か月間の行いを僕は恥じた。この場から消えてしまいたい。なのに彼女は微笑む。誠実な教師だと信じて笑う。
僕はまともじゃない、髪に夢想する変態だ。でも、君の前では少しでも良く思われたい。だから真実は言えない。僕は都合の良い、駄目な大人だ。
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