黒髪に恋、瞼裏の恋

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 夜明け前の空。あるいは、たおやかな天鵞絨。  僕は思わず振り返る。髪だ。女子生徒の黒髪がある。  筆を走らせたような美しい毛先。黒曜石に似た麗しい煌めき。春風と遊ぶ姿は、穏やかで上品だ。僕はすぐに魅了された。  彼女とすれ違うたびに、瞳は吸い寄せられる。黒髪には表情がある。肩口で猫のようにじゃれていたり、背筋に沿い品良く毛先を揃えたりする。その様は女子生徒の人柄を表しているように思えた。無邪気に軽やかでありながら、一人前の女性の顔をする。二面性に魅せられて、僕はくらくらとした。
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