84.衣装は毎年の楽しみです

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84.衣装は毎年の楽しみです

 お祭り用に用意された刺繍の衣装に袖を通す。シェンとエリュは色を変えたお揃いの服を纏い、双子のように笑い合った。木蓮の花に小鳥が刺繍されている。青い絹に白い花と黄色い小鳥、銀髪に映えるよう調整されたワンピースに大喜びだ。下にぴたりとしたパンツを履くので、転げ回っても安心の衣装だった。  肩に小鳥が止まる同じデザインで、薄いピンク地に紫木蓮と水色の小鳥が美しい服を纏い、シェンはエリュと手を繋いだ。肩甲骨まで長い髪は、ツインテールに仕上げてもらった。金色の髪紐を飾り、それぞれに紫と白の花飾りを載せる。 「楽しみだね」 「うん、リンカ達は準備出来たかな」  わくわくしながら廊下に出る。まだ姿が見えないので、昨日公開したばかりのリビングへ向かった。こういう時にも活躍する部屋だ。  扉を開けると、すでにリンカは準備を終えていた。紺色の美しい長衣に凛とした百合が、リンカの長身によく似合う。白ではなく僅かに黄色を帯びた柔らかい色の百合は、動くとまるで本物のようだった。 「リンカ、こうしてみて」  シェンに言われて、リンカが自分の腹の辺りで抱き締める仕草をとる。するとエリュが目を輝かせた。 「すごい! 百合の花束を抱っこしてるみたい!!」  慌てて備え付けの鏡に駆け寄り、同じ所作をしたリンカが頬を崩した。 「本当だな、すごい。凝った作りだ。綺麗で仕掛けまでするとは、ケイトやバーサは腕がいい」 「刺繍はね、サイカも上手なの」  侍女の名前を出しながら、エリュは自分の手柄のように誇る。関係がうまく行っている証拠だと、リンカも微笑ましげに頷いた。他にもお菓子作りが得意な侍女や、意外にも洗濯に才能がある料理長の話を聞いている間に、ナイジェルが飛び込んできた。 「悪い! 少し寝過ごした……つうか、皆綺麗だなぁ」  口のうまさは、1年で向上したらしい。シェンはくすくす笑いながら、エリュの手を取ってくるりと回ってみせた。エリュも一緒に周り、スカートを翻す。 「ナイジェルもかっこいいぞ」  虎が肩から顔を覗かせている。背中一面に虎の毛皮模様が刺繍され、前面は竹と白い花が多用されていた。地は黒に近い紫だ。こちらも難しい上、刺繍の面積が多くて大変そうだった。 「毎年用意してもらうのも、なんだか悪いな」  ナイジェルが気を使った言葉を吐くと、侍女のケイトが「恐れながら」と切り出した。 「これは私達の楽しみですわ。年に一度のイベントですから、飾らせてください」 「そうです。私達も嫌だったら作りませんから」  バーサも応援したことで、ナイジェルも好意に納得したらしい。大急ぎで準備して、今日も街へ繰り出すことになった。
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