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1章 4
村なのかは分からないが、この辺の権力者らしき家に住めるようになったらしいハヤト。
歓迎の宴会が開かれ、筋肉ムキムキのでかい男たちが10人くらい集まってきた。
Aさんのジェスチャーによると、この集落で腕相撲が強い10人らしい。
(この世界は、腕相撲が強い奴が偉いのか?)
その家の長老らしき老人に「明日から働いてもらう」みたいなジェスチャーをされた。
「俺は働きたくない」とジェスチャーするハヤト。
「なら、俺と腕相撲をして勝てば好きにしろ」と長老がジェスチャー。
筋肉ムキムキのでかい長老と腕相撲をしたハヤトは、余裕で長老に勝った。
長老は泣きながら、集まっている男たちに何かを言った。
長老はうなずくと、上座をハヤトに譲った。
ハヤトは、この集落の長《おさ〉になったらしい。
(長に腕相撲で勝って、有力者たち10人に認められたら、新しい長になれるのか?)
そんな光景を若い女性2人が戸の隙間から見ていた。
前の村長の孫のチャイと、Aさんの娘のネイだ。
こそこそと小さな声で話すチャイとネイ。
「チャイ」
「うん」
「あの人、長老に勝ったわよ」
「そうね」
「身長は低くてガリなのに凄いわね」
「じいちゃんが腕相撲で手を抜くはずないから、あの身体で凄いわね」
「あの人、チャイの旦那になるのかしら」
「私は世界一の軍師になるから、結婚なんてしないわよ」
「背は低いし筋肉ないし、どんなに腕相撲が強くても私もパス」
「まあ、そうよね」
この世界でモテるのに、男は顔は関係ない。高身長で筋肉ムキムキがモテるのだ。
成り行きで村長になったらしいハヤト。
(いきなり村長とか面倒だが、早めに言葉と文字を覚えないと、もっと面倒になりそうだな)と思ったのだった。
・・・・・
ハヤトが地球とは別の世界に異世界転移をしてから1週間がすぎた。
「……負けました」
「ああ」
ハヤトは元村長の孫娘のチャイと軍棋をしていた。
軍棋とは、日本の将棋によく似た盤上ゲームなのだ。
ハヤトは新しい世界の言葉と文字を、日常生活に困らない程度に3日間で覚えた。
そして、それからの3日間で軍棋を覚えて強くなったのだ。
「……この私が、軍棋をまったく知らなかった奴に3日間で負けるなんて……」
「おいおい、俺は仮にも村長だぞ。奴呼ばわりはやめろ」
「村長、本当に軍棋を知らなかったの?」
「ああ」
(将棋は知ってたけどな)
「知らなかったふりをしてただけじゃないの?」
「俺が軍棋を知ってたか知らなかったか、その証明はできないな」
「まあ、そうだけど」
「しかし、女が軍棋をやるのは駄目とは、変な話だな」
「そうなのよ。この世界の男たちは狂ってるわ」
「狂ってまでは無いと思うが」
「女に頭脳で負けるのが嫌って、どんだけ金玉が小さいんだって話よ」
「俺は女に負けても気にしないが」
「村長は記憶喪失だし、その辺の常識も消えたんじゃないの?」
「まあ、そうかもな」
「でも、そんな村長のおかげで、堂々と軍棋ができて嬉しいけど」
「この村内だけだろ」
「そうだけど、堂々とはできなかった3日前までとは雲伝の差よ」
「しかし、軍棋が1番強い奴が1番偉いとはな」
「国で1番偉いのは、軍棋が1番強い軍師だからね」
「その下に国王、将軍、大将、中将か」
「うん」
「で、世界大会で優勝したら大軍師」
「そう。私の夢よ」
(盤上ゲームが1番強い奴が世界で1番偉いとはな。変わった世界だ)と思うハヤトだった。
【 終わり 】
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