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空を見上げる。
ぶち壊された葉緑体を、見上げる。
その紅葉の視線を遮るように、1人の青年の顔が覆い被さりそれに彼女は笑った。
「どうした、少年」
「先生は、どこ」
「桜さんを探しに行ったよ」
簡単な紅葉の言葉に蒼空はどこか不服そうな顔をする。
その透き通った瞳ににやり、と笑みを浮かべると紅葉はいきなり彼の頭を無造作に撫でた。
撫でると言うより頭を揺らしているといった方が無難なそれに蒼空はおい、と声を上げる。
「なに」
「大きくなったな、と。」
「はぁ?」
本当に大きくなった。
紅葉は長い前髪を揺らすと少年、と一歩踏み出し顔を近づけた。
彼女が使うシトラスの香水の匂いが鼻をかすめ、蒼空は思わず少しのけぞる。
長い前髪が揺れ、虹色の瞳が姿を現した。
「だから、もうわかるだろ?」
「……」
「君に、あの2人の隙間に入れるほどの甲斐性はないよ」
少なくとも瑞穗が蒼空に邪魔をさせるとは思えない。
温い拒絶と冷たい受容。
邪魔になれば迷うことなく刃を向ける彼が、蒼空だけは特別扱いをする?
あり得ない。
彼にとっての例外は桜だけであり、感染者でなければ人になぞ興味なんて持たない。
「でも先生は約束した」
「あ~君を殺す、だっけか」
紅葉はくすり、と笑うとだから、と首を傾げて見せた。
「あの人は殺すと決めればいつだって殺す人だ。知ってるだろ?」
「……っ」
「邪魔をするな、少年。クロのことが好きなら。」
紅葉だけが呼ぶそのあだ名に蒼空は少し顔を歪める。
その顔を見ると紅葉は唐突に卵が坂道を転がる情景と彼の顔が重なり、珍しく口元から笑みを消した。
――先生とどういう関係なんですか――
幼い少年の顔が浮かぶ。
紅葉は目の前を落ちた紅い葉を片手で掴み取ると、ちっと舌打ちをした。
坂道を卵は転がる?
ふざけるな。
卵は割れるだろう。
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