処刑人は夕焼けを待つ

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瑞穗の身体に包帯を巻きながら、桜は薄ら笑いで彼の髪をといた。 椅子に座り、ただなすがままの瑞穗はそれにつ、と視線をやり桜の方を見る。 「嫌い、はわかった?」 「……わからないです」 無表情のまま答える瑞穗に桜は先ほど自分で傷をつけた瑞穗のほおをさらり、と撫でる。 まるで宝ものを撫でるかのようなその触感に、瑞穗はぴくり、と右手の中指を震わした。 それに桜はふっと声を漏らすと頬から手を離し、右手を乱暴に掴む。 小さく口を開けると、かぷり、と歯を突き立てた。 「……痛い?」 「わかりません。これは痛い、ですか?」 瑞穗の問いに桜は答えない。 「俺に殴られて悲しい?」 答えを探す瑞穗に桜は指から口を離すと、血の滲んだ片目の包帯をぐり、とえぐった。 まるで春の日差しのような暖かな笑顔で笑い、桜の白い指先には紅い鮮血が滲む。 瑞穗の片目がその赤を静かに追いかける。 「悲しい、もわかりません。」 「じゃあ、嬉しい?」 「それも、わかりません」 桜はくつくつと喉を震わして笑った。 そうして椅子から立ち上がったかと思うと自分はベッドの端に座り、おいで、と瑞穗を膝の上にのせる。 華奢な彼の細い腰を抱き、ふふ、と声を漏らした。 楽しげであった。
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