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5 「ギャラリー 人知れず」
「はぁー……。さやかちゃん、これで何軒目?」
「4軒目、だね、朱莉ちゃん。4戦4敗か……」
梅雨明けを声高に主張するような、真夏の光線が降る港町で、私とさやかは顔を見合わせる。おたがいの顔には、じっとりと汗、そして疲れの色が滲んで見えて、私たちは思わず、視線を青く透き通る空へと逃がした。空を飛び行くカモメの鳴き声が、どこか空虚に私の耳に響く。
――6月のあの日、展示を決めてからのさやかの行動は早かった。その翌週には、展示の場所の候補をいくつか挙げたLINEのメッセージが立て続けにさやかから届いた。
「おそらく、展示っていっても、よくある貸しギャラリーじゃ、こういったことはやらせてもらえないと思うの」
「だけど、もっとカジュアルな貸しスペースや、カフェを併設したギャラリーみたいなところなら、可能かも知れない」
そんなメッセージの次には、いくつかの貸しスペースやカフェギャラリーのアドレスが貼られていた。住所を見れば、いずれも、私たちが住んでいる町から電車で1時間ほどの、県内でも有数のリゾート観光地である港町が所在地である。私はさやかの目の付け所に、ふうむ、と唸った。
私も、さやかから連絡が来るまでぼけっ、としていたわけではなく、アート事情に詳しいライター仲間に、そういった展示が実現可能かどうか、相談をしてみたのだった。果たして、電話口に出た友人は、私の相談に対して、開口一番、こう言った。
「普通のギャラリーじゃあ、まず、難しいだろうね」
スマホの向こうで、ふぅ、と息を吐き出しながらの、友人の声が聞こえた。
「がっちりアートしている作品とのコラボレーション、っていうならともかく、その朱莉の文章と組み合わす作品って、いわば、手芸品の価値しかないわけでしょ。ギャラリーっていうのは、もっと、将来に可能性が見いだせるような美術作家に投資したいんであって、たかがハンドメイド作品に価値を感じることは、まずないだろうね。まして、有名人でもないかぎり。あなたたちは、ただのどこにでもいるような高校生と、webライター。その組み合わせじゃ、話題性も皆無だし」
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