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「面白いです! というか、その考え、最高です、岩尾さん! だったら」
途端にさやかが、目を輝かせて岩尾の方に身を乗り出す。そして、私の隣で、ごくり、と彼女の喉が鳴る気配がする。次の瞬間、さやかは懇願するように、岩尾に向かって声を放った。
「私たちのふたり展、ここで、やらせて頂けないですか?」
「いいよ」
その、あまりにもあっさりとした岩尾の承諾に、さやかが息を呑む。そして彼女は一瞬の後、岩尾に感謝の言葉を投げつけようとした、そのとき。
岩尾の突き刺すような視線が、私の顔に、刺さった。
「だけど、その前に、ひとつ確かめておきたいことがある。そっちのお姉さんは、本当に、心の底から、その展示をやりたいわけ?」
「……えっ」
「話を聞くに、小野寺さん、君の意向はよく分かったよ。その熱意は本物だとよく伝わってきた。だけど、お姉さん……えっと、三島さん、だっけ? あなたは本当にこの展示を、心から、やりたいわけ? さっきから黙りこくって、話はぜんぶ小野寺さんにぶん投げて。とてもやりたいようには、見えないんだけど」
私は、まったく予期していなかった、自分へと向けられた言葉に、息を詰らせた。その様子を見て、岩尾がぷはーっ、と煙草の息を吐く。そして私の目から鋭い視線を逸らさぬまま、彼は語を継ぐ。
「三島さん、あなた、このまますべてを小野寺さんに任せて、おんぶにだっこで行くつもりなのかい? なんとなく、引っ張っていってもらえばいいや、なんて、そんな甘い考えでいるんじゃないの? こんなに友だちが一緒になってあなたと表現したい、って言ってくれているのに」
図星すぎて言葉も出ない私に、とどめを刺すように、岩尾は指先で銀縁眼鏡を持ち上げながら、こう言い放った。
「俺は、本気でやりたい人としか組みたくないんだよ」
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