6 私たちの銀河

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6 私たちの銀河

 その年の夏は、忙しい夏になった。  私の書いた8つの詩に沿って、さやかは夢中になって、アクセサリーを毎日作り続けていた。そして夜になると、必ずその進捗状況を写真付きのメッセージに託して、LINEで私のもとに送信してきた。イヤリング・ピアス・ブローチ・バレッタ……。彼女の手から、あれよあれよという間に、レースやボタン、天然石といった様々な素材を組み合わせたアクセサリーが、次々と産み出されていく。私はスマホに届いた写真を見ながら、毎夜、感嘆の溜息をついては、彼女に返事を送り返す。 「すごいね。さやかちゃん。まるで魔法を見ているみたい」  すると、さやかからは、即座に、こんな返事が返ってくる。 「魔法じゃないよ。ただ、楽しくて手が止まらないの」 「それもこれも、朱莉ちゃんの詩のおかげ」 「朱莉ちゃんの詩が、今の私の、インスピレーションの源だもん」  そのたびに私は、成り行きとはいえ、過去の自分のなかからあふれ出したなにかが、確かな「かたち」をもって、この世の中に新たに産まれていく有り様を、不思議な気持ちで見つめ返さずにはいられなかった。そして私は、あの日から部屋のテーブルの上に置かれたままの、古ぼけた小冊子を、そおっ、と捲る。そして、今となっては、自分が書いたのかさえ怪しい8つの詩に、目を走らせては、その当時のことを思い出そうと試みる。  遠い遠い、高校生の、16歳の私。そのとき、私は、どんな思いで日々を過ごし、どんな空気を吸って、生きていたのか。その記憶を、自らの胸におそるおそる、問いかける。  だが、いつも、うまくいかない。私の胸に湧き上がるのは、輪郭もあやふやな、高校生活のいくつかの断片のみだ。よって私は、どんな想いを持ってこの詩を綴ったのかということに、今もって、思い至らない。  
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