6 私たちの銀河

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 その疼きに押されるように、私は展示の準備に次第に夢中になっていった。さやかがアクセサリーを作るのが仕事なら、私の展示での役割は、8つの詩をまとめた小さな詩集を作ることだった。さやか、それとギャラリー主である岩尾との打ち合わせで決めたことだ。それを、単独で、もしくはさやかのアクセサリーと合わせて、展示を観に来た人に買ってもらうという計画だ。打ち合わせの結果、詩集は50部刷り、1冊1000円で売ることとなった。もちろん、アクセサリーとセットなら、定価より値引いて安く売る算段だ。  私は、仕事の合間を縫って、比較的安価で、でもちょっと洒落た冊子を作れそうな印刷会社をネットで探しては、見積もりを出してもらった。そして、ここぞという会社を決めたら、今度はそこに入稿する原稿作りに四苦八苦する日々が続く。  しかしながら、私の心の底に、常に不安はあった。そう、あの日、あの「ギャラリー 人知れず」で漏らした自分の言葉が脳裏に浮かぶ。  ――「自信はないけれど、私の詩なんて、って思うけど」。  あの日帰り際に、岩尾は「やりたいことに、自信のあるなしなんて、関係ない」と私に言葉を掛けてくれた。それでも、やはり、思ってしまう。私の詩なんて、と。しかし、それと同時に思い浮かぶのは、マルシェのあとのファミレスで「私なんて」と呟いたさやかの顔の自嘲に沈んだ顔。そう、あんなに素敵なアクセサリーを作るさやかの憂いに満ちた顔。そして私は思う。自分はいま、あのときのさやかと同じ顔をしているんだろうな、と。まったくもって、なにかを産み出して、それを人の目にさらすという行為が、こんなに勇気がいることだなんて、体験するまで思いもしなかったなあ、と。  そして、さやかは、それを今まで見事にやってのけてきたんだな、と思うほどに、私は彼女に対して、またしても舌を巻かずにはいられないのだ。
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