6 私たちの銀河

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 8月末、展示がいよいよあと一ヶ月となった日曜日。  私とさやかは、展示の最終打ち合わせをしに、ふたたび「ギャラリー 人知れず」を訪れた。暑さを解き始めた空は、夏の青さを残しつつも、既にそこを渡る風には秋の色を感じさせる涼しさがあって、荷物を背負って港町を歩く私たちの額も、もうそう汗ばむことはない。私の鞄の中には、できたばかりの詩集の見本が、そして、さやかのリュックの中には、私の詩を元に作り出したアクセサリーの数々と、展示の空間に生かせそうな布やトレーなどの什器が詰っているのだという。 「この間、ユザワヤに行ったら、濃紺の素敵な布があってね、これをあのギャラリーの空間に張り巡らせたら素敵だなと思って、3m買っちゃった」  そう歩きながら私に説明するさやかの顔は、いつにも増して上気していて、その頬は赤い。来る展示が楽しみで仕方ない、といった様子だ。  それに対して、私は得も知れぬ緊張を堪えるのに必死で、返す笑顔もどこかぎこちない。やることはやって、準備は整えてきたと思うものの、果たして岩尾が、私たちのその様子を見て、なんと感想を述べるか、それが怖かった。やがて、私の硬い表情に気付いたようにさやかが私に声を掛けてきた。 「朱莉ちゃん、大丈夫だよ。今日、実際に作品を並べてみれば、展示のイメージ掴めるから。ぜったい、良い雰囲気だと思うよ」 「うん。まあ、そうだけどいいんだけど……」  そうこう言ううちに、私たちの足は「ギャラリー 人知れず」の前に辿り着いていた。ドアを開ければ、岩尾が煙草ふかしながらソファーに座っている。そして私たちを見て、にやり、と笑った。
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