6 私たちの銀河

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「すごいな。いつものギャラリーの雰囲気とは大違いだ」  それから1時間後、私とさやかは、さやかが見つけてきた布を、脚立を使いながら、ああでもないこうでもないとギャラリーの中に張り巡らしては、空間をどう演出するかという難題と格闘していた。とはいえ、さやかの見立ては流石だった。サテンに似た艶のある濃紺の布を、天井から天井へと伝わせてみれば、ギャラリーの中は夜のとばりが降りたような雰囲気を醸しだした。ことに、天窓から降ってくる陽光と布が重なり合って、壁に微妙な影を投影するさまは、その空間をより引き立て、まるで銀河の中に立つような神秘的な空気を感じるほどだった。 「良い空間になりそうじゃないか。ここにあと、壁に大きな紙をピクチャーレールを使って飾るんだっけ? 一枚ごとに詩を大きくプリントしたやつ」 「はい、A1の大判プリントを8枚、いま、印刷会社に作ってもらっています」 「それを見ながら、下の棚にこれらのアクセサリーを並べて、お客さんに世界観を体感してもらうわけか。なるほど、たしかに、ことばとアクセサリーのコラボレーションだ」  岩尾はテーブルに置かれたアクセサリーと、私たちが張り巡らせた布を交互に見ながら、満足そうに銀縁眼鏡の奥の目を細めた。そして次に、アクセサリーの横に置いておいた、刷り上がった詩集を手に取り、ぱらぱらと頁を捲った。 「うん、これも良い出来だ。アクセサリーと一緒に、これを買い求めてもらえれば、お客さんは家に帰ってからもこの世界観を味わえるって算段だ」 「はい、それが狙いです。でも、売れるかどうか」    私は岩尾に詩集の出来を褒められて、ちょっと、ほっ、としてしまい、つい口から弱音を滑らせてしまった。すると、岩尾が銀縁眼鏡に手を掛けながら、私のほうを見やる。 「それは、君たちの宣伝次第だな。ほら、俺の方では、ちょうど今日これが届いた」  岩尾はそう言いながら、テーブルの下からなにかの紙束を取り出した。それを見て、さやかが岩尾の元に駆け寄る。そして、その紙を手に取るや、歓声を上げた。
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