6 私たちの銀河

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「わあ! すごい、DMだ!」  私もその声に釣られるようにテーブルに近づき、さやかの手の中にある紙に目をやる。なるほど、それは確かに私たちの展示のDMだった。「三島朱莉 小野寺さやか ふたり展 ことばとアクセサリーのコラボレーション」という金色の文字が、ギャラリーの地図や会期と共に、夜空をイメージしたらしき青い紙の上に躍っている。 「制作費はサービスしておくよ。印刷代は売上から引かせてもらうけどね」 「もちろんです! マルシェにいつも来てくれたお客さんで住所の分かる人とか、知り合いの作家さんに、出そうと思います。そうそう、SNSでも告知します。みんな、来てくれるといいなあ、ねえ、朱莉ちゃん!」  さやかは、満面の笑顔を私に向けた。が、私は、即座に頷くことができなかった。そう、肝心のDMを出すあてが、まったくもって、頭に浮かばなかったのである。途端に私の視線は、床を向いてしまった。それに気付いて、さやかが私に声を掛けた。 「どうしたの? 朱莉ちゃん」 「……ごめん、私、どこにも出すあてがない……」 「え?」 「DM、この近隣のお店に置いてもらえるか、頼むことは出来るけど、私、それくらいしか役に立てそうにない……」  すると、岩尾がふたたび私の方に向き直った。銀縁眼鏡の奥の目は、心なしか鋭いひかりを帯びている。そして彼は顎の無精髭をさすりながら、静かにこう言った。 「三島さん。DMを送る相手はね、絶対に来てくれる人じゃなくても、いいんだよ。問題は、今、あなたが表現する姿を、誰にいちばん見てほしいか、だ。じっくり考えてごらん」
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