7 ふたり展開催

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7 ふたり展開催

 ふたり展が始まってから4日目。秋分の日。そして最初で最後の週末。その日、「ギャラリー 人知れず」のなかは、活気に満ちていた。  はっきりいって、会期初日は散々な集客だった。平日のスタートということもあったが、12時のオープンとともにさやかと私は、勇んでギャラリーをオープンさせたけれど、その日18時のクローズの時間までに展示を訪れたのは、物珍しそうにやってきた、近所の人が数人だけ。岩尾の亡くなったお父さんが開いていた、絵画教室の生徒だった人達だ。それでも、来てくれるだけありがたいと、さやかと私は、口から唾を飛ばして、この展示について説明の限りを尽くした。  ことにさやかは、いつものおどおどした様子からは考えがつかないほどに、雄弁だった。 「私の作るハンドメイド作品は美術品じゃありません。でも、詩という“ことば”と共鳴させることで、見てくれる人の心に、なにか新しい“眼”が産まれてくれれば、そして新しい“世界”を感じてもらえれば、私は十分なんです」  紺の布を張り巡らせた空間のなか、さやかはそう言って、私たちの作品を鑑賞していく僅かな人達に微笑んでみせた。それに対して、近所の人達は「なるほどね」と曖昧に笑い、ギャラリーを後にしていった。初日の売上は、ゼロだった。  2日目も、初日とそう代わり映えしなかった。2日目のクローズ時には、さやかと私の表情は、目に見えて暗くなっていて、様子を見に来た岩尾に思わず諭される始末だった。 「あのな。人に自分の表現を見てもらうってのは、そう容易なことじゃないんだよ。たとえ、ひとりでも興味を持って訪れてくれる人がいたら、ありがたいってもんだ。あんたら、それは分かっていて、この展示に臨んだんだろう?」 「……それはそうなんですけど」 「だったら、それを信じることだ。この二日間に来てくれた人の心に、なにか残せたとしたら、今はそれで十分だろう?」  私とさやかは、岩尾の言葉に、ただ、おずおずと頷くしか術が無かった。  
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