第1話 満月

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「実、りんごあげる食べて?」 「えっ?何処かであった?……以前、接客したかな?」 困惑する実はミコトから赤いりんごを受け取る 「毒りんご?じゃないよね?」 不信に思って真琴が言う 「実なら大丈夫だよ、今、食べて」 「う、うん」 不思議そうに実は赤いりんごを食べ始めた、別に何も起こらない食べきった。残った芯を受け取るミコト 優しい穏やかな笑顔になるミコト 「実、1週間後にまた来る」 「ごちそうさま。えっ、ああ、あの名前は?」 「ミコト」 そう言って立ち去るミコトの背中を見つめる ホスト3人 「なんだ?あれ?」 白いスーツのホスト晃 「実のファンか?」 グレーのホスト真琴 「……あの笑顔……以前、何処かであった…… かな?……みこと、どんな漢字?」 思い出せない実だった。 歌舞伎町一番街の通り 『こちら新宿警察署及び歌舞伎町振興組合です』 男性のアナウンスと女性のアナウンスが 夜だけ流れる。 行き交う人々の多さ、まだまだ夜は深まる ホストクラブ『アンジュ』フランス語で天使 今時のクラブは店内が明るい、きらびやかな装飾はなく下半分は薄い紫色の壁紙と柱、上半分は白い壁紙、黄緑色のソファーに薄い木製で栗色の四角いテーブル BGMはホストによるピアノ演奏 数人のホストがピアノ弾ける 黒髪ロングヘアーで赤いカーディガン、白い襟シャツ、黒のGパン、赤いハイヒール、ソファーにはグレーのダウンジャケット ルビーのピアス、ネイルはしてない爪は深爪にならない程度に綺麗に切ってある、そしてピンクの口紅、ナチュラルメイク、上品な眉毛の女性、月影華恋(つきかげかれん) 職業は作家、一見ペンネームに思えるが本名 だという、年齢は30歳で独身 「えっ?子供時代ですか? 僕のより華恋さんの子供時代、可愛かっただろうな」 実の左側には華恋、今夜の常連客 毎週末に来店するほど実のファンでお金持ち 「もちろん、可愛かったわよ。蝶よ華よと育ったわよ」 「実くん同世代でしょ?教えてよ?」 「えっ、えっと……俺は施設で育ったから親いないんだ。正確には母が亡くなる前に施設に預けられたんだけどね」 真顔になる華恋、困り顔の実 「面白い話ないよ」 「……お母さんとの思い出とかないの?」 ひと口、シャンパンを飲む実は重い口を開く 明るい話題にしなくてはと 「母が手紙残してて『実ある人生を、いろんな経験積んで実を付けて、実って名前付けたんだ』ってさ」 「愛されてるのね」 心が暖かくなり優しい笑顔になる華恋 「うん」 グラスにシャンパンを注ぐ実、乾杯して華恋と実は新しいシャンパンをひと口飲んだ。 「手紙あるなら写真とか無いの?」 「高校卒業してボロアパートに住んでたんだけど、火事でね皆、燃えたんだ」 悲しそうな顔でうつ向く実 実の頭を抱き寄せる華恋 「それはかなりショックね、私が時々、ママになってあげようか?」 「えっ!?……うーん」 「嫌なの?」 「対等でいたい」 「クスッ、そうね。スイーツ頼むわね」 メニュー表を手に取る華恋 翌朝7時過ぎ、実は西新宿にあるタワマンに入っていく、店のオーナー男性と暮らしている身元保証人もオーナーだ。 部屋に入りキッチンへ、ティーパックのカモミールティーを入れてポットからお湯を注ぐ、スティックシュガーを3本入れて混ぜる。30畳のリビング、ダイニングキッチン ブルーのソファーに座りメールチェック 『仕事お疲れさま』『おはよう。ありがとう』『仕事行ってきます』『気をつけて行ってらっしゃい』 毎朝、数十人から届くメールに返事 寝るのは朝10時
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