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櫻子の挨拶が終わって、みんなでワシの棺にお花を入れ始めた。どんどんファンシーになるワシ。
って、そんなことを言っとる場合じゃない、みんなで集合写真を撮らないと!そもそも本当にこれが仏様の望む“初めて”なのかも分からんのだが、これしか思いつかん!
どうしていいか分からず、親族が群がる自分の棺の周りをウロウロ。どうしようかいのぉ、何か皆に気づいてもらえる事があればええんだが…!いやでもワシが変なことをするともはや心霊現象か?
あれ、藤子は??
くるりと振り返ると、妻の藤子が椅子に座り込んでぐったりと頭を垂れていた。その様子を見た親戚が藤子に声をかける。
「大変だったわねぇ藤子さん。長いこと介護されてたんでしょう?」
うぐっ。その言葉にワシの心がえぐれる。
今それを言わんでくれ…。
藤子が薄く笑って「ええ…」と返事すると、その女性は更に声を落として話し始めた。
「寂しいけど、でもどこかちょっとホッとするわよね…。介護がようやく終わったんだって。私、自分の父の介護してたんだけど、亡くなった時にちょっと胸がスッとしたわ。」
すまんのう、すまんのう、ワシだって好きでお前に迷惑をかけたんじゃないんだが、ああ、藤子…
藤子は何も言わずに視線を落として苦笑いする。藤子、すまんかった。いかん、藤子の傍におると心が折れそうだ。ちょっと離れよう、いやそれよりも写真…
「はぁ?ろくに見舞いも来なかったくせに、何偉そうなこと言ってるの?」
うう゛ん!?
近くで非難がましい声が聞こえた。振り返ると、長女の櫻子が次女の菫子を凄まじい剣幕で睨んどる。おまけに菫子もそれに負けないくらいの険しい顔で姉を睨み返しとる。
ちょっと待て、お前ら何を喧嘩しとるんだ!人前で姉妹喧嘩なんかするんじゃない!
櫻子は鼻で笑って菫子を威圧した。
「なによ、介護だって全然してなかったのに。お金だけ送って責任果たしたと思ってるの?お父さんのこと放置してたくせに、」
「放置してないわよ、会いたかったけど遠くにいるしコロナだし、なかなかそっちにいけなかったの!だからお金をっ、」
「会いたいって連絡してこなかったじゃない!昔からそうよ、菫子はちゃっかりしてて、」
「やめなさい、二人とも。」
藤子が疲れた声で二人を止めた。二人はバツの悪そうな顔で口を噤む。
すまん、二人とも。ワシのせいで喧嘩しとるんだな。ワシがダラダラ生き延びたせいで、櫻子は介護、菫子には金銭の負担をかけてしもうた…。
目を真っ赤にして式場を飛び出した菫子は、ホールで立ち止まって涙をポロリと溢した。
菫子、菫子。すまんな大丈夫だぞ、父さんは分かっとるぞ。菫子のおかげでワシはヘルパーさんにも来てもらえたし、福祉機器もたくさん購入できた。菫子がお金をたくさん送ってくれたから、自宅介護でも十分な設備を整えることができた。
菫子にも感謝しとる。だから泣くな。
ごめんな、菫子。
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