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人はピンピンコロリで死ぬのが一番いいと思う。本人も直前まで普通の生活が出来るし、それに何より家族に迷惑をかけん。
ワシはその逆、ボロボロの状態で粘りに粘ってようやく死んだ。脳卒中で倒れてから、その後遺症で半身麻痺になって、ベッドから動けん生活を強いられた。しかも認知症まで併発してしもうて、体は動かん頭も動かんのポンコツ状態じゃった。
そして、そのせいでどれだけ家族に迷惑をかけたか。妻や同居の長女には付きっきりで世話をしてもろうた。離れて暮らす次女には毎月お金を送ってもらった。
妻だって、子育ても終わってようやく落ち着いたところだったんじゃ。お友達と旅行したかったろうに。
長女だって、ワシのせいでかなりの時間を拘束された。働いたり習い事したりしたかったろうに。
次女だって、ただ死んでいくだけのワシのために大金を注ぎ込まんといけんかった。そのお金で好きな物を買いたかったろうに。
ワシの胸には後悔の念ばかりが強く残って、死んで体も軽くなって意識もシャンとしたんだから、謝罪の一つでもしたいのに、もう話すことが出来ん。
その上何故か幽体で自分の葬式にまで参列しとるんじゃ、仏様から「お前は迷惑ばかりかけたんだから、すぐに成仏なんてさせません。ちっと反省しなさい」と言われとるんかもしれん。
ヤじゃのう、自分の葬式。ほれみい、棺桶の中のワシ、あんな間抜けヅラしとる。
申し訳ないのう、ただでさえ迷惑をかけとるのにこんな立派な葬式まで上げてもろうて…。サクッと骨を焼いて、さっさと簡単に済ませてくれればええのに。
ただただ、申し訳ない。
いたたまれない。
「もし、古島 栄市さん。」
名前を呼ばれた。
ワシは幽体じゃし、まさか自分が呼ばれとるとは思わなんだ。だから無視した。でも、その霧の彼方から囁くような声はまたしてもワシを呼んだ。
「もし、古島 栄市さん。
あなたですよ、死んでしまった古島 栄市さん。」
さすがに振り返った。
信じられんかった。だって、死んだワシが見える人間だなんているはずがーー…
振り返った先にいたのは人間ではなかった。
小さな妖精のようなものが二人いた。
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