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葬儀参列、死者私。
「如是我聞。一時仏。在舍衞国…」
豪華な袈裟を着た坊主が、ぽくぽくと木魚を叩いとる。お経を唱えながら、時々「スゥッ!!」と強烈な息継ぎをしとる。
コロナのせいで親族しか呼べんかったらしく、ひっそりとした人数が黒い喪服を着て、ボソボソと慣れんお経を読んどった。
「ジュース飲みたい!」
孫の洸樹が大人たちのボソボソお経をかき消す程の声でジュースをねだっとる。すまんなぁ。洸樹は小さいから、こんな長時間黙って座っとられんよなぁ。
でもなぁ、じいちゃんもちょっと今困っとるんだ。
これは、初めての葬式。
いや、生きとる間はもちろん何度も出席させてもろうたが。つまり、死んでから初めて出席する葬式。
…意味が分からない?すまんがワシもちょっと今、自分の置かれとる状況がよく分からん。
要するに、死んだワシの魂が葬式に参列しとって、それが誰の葬式なのかと言ったら自分の葬式なんだから呆けるしかない。
祭壇には家族が選んで葬儀屋が引き伸ばしたであろう、ちょっと若い頃のワシの写真が飾られとった。
もうちょっとカッコいい写真なかったんかのう。
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