星狩りは独り征く

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 灼熱の太陽が沈み、地上に夜が訪れる。  地表に残る熱に汗を滲ませながら、レグルスは注意深く辺りを見回した。荒漠と広がる岩の大地に、自分以外の生き物の気配は無い。血に飢えた【星】達は、まだ起き出していないようだ。  暗視ゴーグルに表示された気温は89℃で、もちろん防護スーツの着用は欠かせないが、ここ数日の夜の気温としては涼しい方だった。運がいい、これなら明け方ギリギリまで粘ることが出来るだろう。  右手に持っていたライフル型AI砕星銃(さいせいじゅう)を背負いなおす。α-1.618033988【φ(ファイ)】の刻印が施された銃身から、呆れたような青年の声が響いた。 『ねぇ、やっぱり基地に戻ろうよレグルス。単独で星狩りなんて危ないよ?』 「黙れポンコツ。明日には他のエリアに飛ばされちまうんだぞ。今夜中に仕留めなくちゃ、またいつ戻って来れるかわかんねぇだろ」  一瞥もせず応じつつも、レグルスはこのAI砕星銃を持ち出したことを後悔し始めていた。目的の【星】を探知するのに役に立つかと思っていたのに、先ほどから説教しかしてこない。  しかもそれが、φの元データになった人物の口調や声を完全に再現したものだったので、余計にレグルスは苛立った。 『少しくらいは相棒の言うことを聞いて欲しいなぁ』 「うるさい。お前みたいなクズ鉄、相棒なんかじゃない」 『えぇ〜ひどーい! じゃあ相銃? あ、指導教銃なんてのもアリかな』  φの気の抜けた冗談に舌打ちをしたとき、レーダーに動く【星】の反応があった。半径一キロ以内だ。 『レグルス』 「あぁ。二時の方角、いるな。ここから照合出来るか?」  ターゲットのいる方角へφを構えると、スコープの遥か遠くに青白く発光する生き物の姿があった。微かなモーター音の後、基地のデータベースに登録された情報がゴーグルに表示される。 『──照合完了。個体番号β-1.618033988 ネームド【ファイ】』  その名を聞いた瞬間、レグルスの身体は歓喜に打ち震えた。同じ二つ名が彫られた銃身を強く握り、φが止めるのも聞かずにジェットスケートのギアを上げ、夜の闇を駆け抜ける。  見つけた。ようやく見つけてやれた。  待っていろ、ファイ。俺の相棒。  俺が必ず──必ず、お前を殺してやる。
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