星狩りは独り征く

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 遥か昔、この星は『青い惑星』と呼ばれるほど水資源が豊富で、多様な生物が共生する楽園のような場所だった。『海』と呼ばれる何兆tもの塩水と、木々の緑に覆われた地表は、命を育むのに最適な環境であり、人類はその恩恵を受け、一時は地上で最も繁栄した種族だった。  しかし、永遠の栄華などありはしない。共通歴7042年を迎えた現在、水素を失って光度を増した太陽により気温が上昇し、地表の水分の大部分は蒸発していた。空は常に厚い雲に覆われるようになり、その影響で更に気温が上がって海の水が蒸発し………と、悪循環を繰り返している。  気候変動は植物にも影響を及ぼし、現在の地上の二酸化炭素濃度では植物の光合成は殆ど不可能になっていた。食物連鎖の基盤であった植物を失い、かつて地上で暮らしていた生き物の大半は既に死に絶えている。  しかし、そんな過酷な環境でも人類は滅びなかった。戦争や疫病、ありとあらゆる滅亡の危機を乗り越えた人類は、地上の急激な環境変化に適応することを諦め、しぶとく地下へと住処を移したのだ。  レグルスとファイは、そんな地下都市の第七番研究所で生まれた。受精卵を作る研究員の手違いで、同じ水槽で培養されてしまったという昨今では珍しい双子だ。  双子と言っても、それぞれ違う人間同士の受精卵が元になっているため、見た目は全く似ていない。黒髪赤目で体格の良いレグルスと、全体的に色素が薄くて線の細いファイ。性格も正反対だったが、初等教育学校で悪戯をして先生に叱られたときも、軍の養成学校に志願したときも、『星狩り』として頭角を現しエースの称号を得たときも、二人はいつも一緒だった。  だからこの先も、一緒に笑って馬鹿やって、最期まで共にあるのだろうと思っていた。  思って、いたのだ。  ファイの班の班長から、彼が【星】になったと知らされた、あの日までは。
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