星狩りは独り征く

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 ファイの放つ燐光を目視できる距離まで接近し、岩陰に身を隠す。ファイは岩山の麓にある廃村の方へ向かって、よたよたと歩いていた。  廃村までなら問題ないが、その奥にある市街地跡まで行かれると厄介だ。すぐそばに地下への入り口がある。普段なら隊の仲間達と包囲網を作り、背後から奇襲を仕掛けるところだが、今回は勝手に基地を抜け出して単独行動に出ている身だ。数で攻める戦法は使えない。 『どうするの、レギー?こんなだだっ広い場所で仕掛けるのは流石に危ないよ』 「レギーって呼ぶな。お前に言われなくても分かってる。先に行ってトラップを仕掛けるぞ」  レグルスは踵を返すと、岩山を迂回するためにギアをもう一段階上げて地面を蹴った。  地下で生活するようになった人類にとって、もっとも身近な脅威となっているのが、【星】と呼ばれるウィルスだ。この【星】という言葉はそのまま、ウィルスに感染した者を指す場合もある。  レグルスの部隊の隊長のような骨董映画を好む人間は、【星】のことを「ゾンビウィルス」と呼ぶ。噛まれることによって感染することや、理性なき化け物となって人々に襲いかかってくるところが、ゾンビというフィクションの怪物によく似ているのだそうだ。  【星】に罹患した場合の致死率は百パーセント。治療法は存在しない。感染すると体が青白い光を放つようになり、地下で罹患した者は無意識のうちに地上を目指しフラフラと出て行ってしまう。ひとたび夜の外気に触れると、ウィルスが一気に活性化し、闇の中をめちゃくちゃな動きで走り回るのだ。それも、人間とは思えない速さで。  その姿が流れ星のように見えるため、このウィルスを【星】と呼ぶようになったという説や、「人は死んだら星になる」という古代の人々が死者を偲んで使った言葉が由来であるという説など、さまざまな学説があるが、レグルスにはどれもイマイチぴんと来なかった。  そもそも、レグルスの世代は流れ星どころか星空というものを見たことがない。地下に暮らしていることも理由の一つだが、空は常に厚い雲に覆われているせいで、その先なんて見えやしないからだ。学校の映像教材で見た星空がとても綺麗だったから、きっと【星】も綺麗な姿をしているのだろう。なんて、無邪気に考えていた時期さえあった。
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