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治癒プログラムが終了して再び立ち上がったレグルスに対し、φはもう帰ろうとは言わなかった。
『ねぇレグルス。もう一度約束して。絶対に、僕に殺されないでね』
「……どうだかな」
『ちゃんと約束して! 絶対だからね!』
「分かった分かった! 訓練生の銃持ってくたばるなんてダサくて死にきれねぇよ!」
レグルスは不敵に笑うと、ジェットスケートのギアを最大出力に上げ、天井の穴から地表に飛び出した。再び捕らえたファイの反応を追って、旧市街地へと滑走する。
ファイの姿は、地下への入り口を囲う防壁のすぐそばにあった。他の二体の【星】と供に、壁をガリガリと引っ掻いている様子を、離れたビルの上から見下ろす。
「餌は尽きたからもう罠は張れない。路地で撒きながら一体ずつ仕留めるぞ。お前は……いや、いい。任せる」
『オーケー、相棒』
言葉は必要なかった。レグルスはビルの壁面を垂直に滑っていき、勢いをつけたまま大きく跳躍した。気配に気付いて突進して来た一体に向けて空中から弾丸を打ち込むと、頭部を砕かれた【星】が地に堕ちる。まずは一体。
着地と同時に走り出し、ファイともう一体の【星】を旧市街地の中へと誘い込む。ここからは持久力と集中力が勝負だ。人体が耐えうるギリギリのスピードで狭い路地裏を駆け抜け、屋根を飛び移り、壁を蹴って反転して、【星】を引き剥がしていく。一瞬の判断を見誤れば、自分が壁に激突して即死する危険な追いかけっこだが、レグルスは決してスピードを緩めなかった。
『左下から来るよ、跳んで!』
追手の動向を三次元で捉えているφが、的確に指示を出す。レグルスは廃屋の外階段を足場にして、屋上へ跳び上がった。
「仕留めるぞ!」
『りょーかい! 熱線モード起動──発射!』
砕星銃から放たれた高温の光線が、今しがた足場にした外階段を焼き、崩落させる。粉塵を上げてひしゃげた鉄に阻まれ動きを止めた【星】は、心臓に弾丸を打ち込まれて完全に沈黙した。
残るは──。
『レグルス後ろ!』
「ッ⁉︎」
振り向いた時には一瞬遅かった。ファイの爪が青白く閃いたかと思うと、手が折れそうなほどの衝撃が、砕星銃越しに伝わった。
ブースターを逆噴射して飛び退くと、なんとか体勢を立て直して街の出口へと走り出す。
「大丈夫か!」
『ちょっと歪んだけどヘーキ! それよりどうする? もう街の端まで来ちゃったよ』
「考えがある。さっきの崖に向かうぞ!」
ジェットスケートの燃料が、そろそろ底を尽きかけていた。みるみる距離を詰めてくるファイに焦りながらも、レグルスは真っ直ぐに走り続ける。
夜明けがすぐそこまで迫っていた。白み始めた視界に石灰岩の崖を認めると、レグルスはわざとスピードを落として十分にファイを引きつけ、思い切り地面を蹴った。
背後で水柱が立った。レグルスは崖の縁ギリギリで踏み止まると、地面に落とし穴の如く空いた洞の底を覗き込んだ。
ファイは、先ほどまでレグルスが避難していた洞窟の池の中でもがいていた。水飛沫を上げて溺れ苦しむ相棒に、レグルスは銃口を向ける。
「赦してくれ、ファイ」
水音が止んだ。青藍の池に揺蕩うファイの顔は、心なしか穏やかに見えた。
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