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竹中のせいだと思った。
二人でホテルにチェックインした後、彗はシャワーをチラリと横目で見て、通り過ぎた。
柊のスーツ姿。鏡に映った彗もスーツ姿。互いに子供ではないのは一目瞭然だ。なぜ、竹中が二人をセフレだと言い切ったのか、彗は聞くことすらしなかった。スーツと同じ、一目でわかるのだろう。二人の発する微妙な距離感。ホテルというその為に作られた建物に、手は繋がず、横に並ばず、無言で入っていく二人に特別な関係を見出さなかったという訳だ。
柊が彗を背中から抱きしめた時、ふいに鼻の奥がツンとして必死に瞬きを繰り返した。感情がコントロールできない。首筋に押し付けられた柊の唇は小刻みに揺れている。
「やめて……」
ジャケットを脱がしかかっていた柊の長い指を掴んだ。
二年間だ。ただ一度も拒んだことはなかったその行為に初めてNOを突き付けた。柊の動きが止まらなかったので、彗は一歩前に足を出してあらためて拒否する。背に感じていた柊の温度を失い、彗はまた瞼に力を入れなければならなかった。
甘い愛の歌が流れて感傷的な気持ちを嘲笑う。
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