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竹中がまたピクルスをハンバーガから抜いている。彗は黙ってその行為を眺めていた。薄い木緑色のへにゃっとしたそれより、緑色のシャキッとしたピーマンの方が苦手なことを言おうかと思ったが、面倒になってぼんやりと竹中の指を見つめていた。
「泣いたのか?」
不躾な問いに彗は眉毛をピクリと動かすと「さあ?」と素っ気なく答えた。
テーブルの上に出していたスマホが驚いたように震えた。
ボサノヴァのかかる店内で、憂鬱なのは彗だけなのかもしれない。竹中も曲も楽しそうだ。いや、この人はいつだって楽しそうなのだ。
スマホを開けると目を見開いた。
『彗。一晩考えたんだけど、もう一度最初からやり直そう。俺はお前が好きだ。今更って思うかもしれないけど』
息を吸うと僅かに震えて、それを竹中が勘付きジッと見つめる。
「引き留め作戦きた?」
どこまでも勘がいい男だった。
『あとそいつに言いなよ、彗はピーマンが嫌いだって。食うのはピーマンにしてくれって』
とっさに振り返るとスマホを片手に柊が立っていた。昼間に見る柊なんて久々過ぎてこれまでとまるで違う人のようだ。
「柊」
呟く彗の背後で舌打ちが聞こえた。そして、椅子の足がタイルに擦れる音。
「邪魔者はあっちに行ってるから、さっさと済ませろよ」
竹中はそう言い残すとトレーを持って席を移って行った。竹中の移動を待って柊が口を開いた。
「言いそびれて二年か……あの日、初めて寝た日。彗酔っぱらってたろ? タイミング見て付き合おうって言おうと思ってたら」
「今になった?」
「ああ……すいませんでした」
何故かやたらと丁寧に謝られて、面食らう。こんな柊を初めて見た。いつも余裕がある雰囲気だし、学生時代からの付き合いだから真摯な態度で接されるとどうしていいのかまごまごとした。
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