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軽く頭を下げた後、柊は面を上げて悪戯な笑顔を向ける。
「今から『シエスタ』に戻ってやり直したいんだけど」
「そういう関係は嫌だって言ったのに」
「そう言う関係じゃなくてもう一回普通の付き合っている者同士確認しあいた──」
少し離れた席から竹中が「おい、仕事忘れてくれんなよ! いちゃつくなら休みの日にしろ。休みの日に」と、結構なボリュームで言うから彗と柊は目を見合わせて笑った。
「じゃあ、そうしようか。朝から出かけて、昼にちょっとシエスタして、それからまた映画なんか行って?」
どれもこれまでやったことのない事だ。それはきっと一般的なデートだと彗は思ったし断る理由なんてないから頷いた。承諾した彗に柊は破顔して息を吐いた。
「ちょっと勇気いるな。あらためて告ると」
「あらためて? 初めてじゃない」
そこでまた竹中が「はい、店内でいちゃつかないでくださーい」と、ヤジを飛ばすから、二人は吹き出してしまった。
去っていくスーツ姿の柊の背中を見えなくなるまで見送っていた。衝動に突き動かされてなにもかも先延ばしにしていたが、二人はあの頃ほど子供ではない。
「子供は計画的にな。うち人手不足なんだし」
トレーを持って戻ってきた竹中がちょっぴり嫌味を言うが彗は気にしなかった。
「勢いも大事ですよ?」
「うへ、ヤダヤダ」
やり返せて満足した彗は「嘘です。これからはちゃんと話し合って進みますから」と言い直すと、竹中が肩を竦めた。
「狙ってた女に目の前でイチャつかれた俺に奢れよな」
嫌ですよ。と言いながらも彗は財布を取り出していた。
「コーヒーだけですからね」
「砂糖なし」
「ミルクはありで。はい」
ある意味、竹中様々だ。立ち上がるとボサノバを聞きながらカウンターへと歩いていった。
了
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