虹翼戦記【外伝】白い華降るころ

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「——、そうだ」  片手を手綱から離し、クラウスは鞍に(くく)った荷物袋から一着の外套(フーレ)を引き出した。  早くも自分と、そして幼児(こども)に薄くかかった雪を手早く落とし、ばさりと外套(フーレ)を広げると、幼児(こども)ごとその中に包み込んで前を合わせる。 「景色は見えませんが、我慢してください」 「だいじょうぶ」  幼児(こども)が答え、そしてきゅ、とちいさな両の手に力がこもる。  彼の(くち)(もと)がそれに思わず(ほころ)んだ。  声には出さぬまま、彼も幼児(こども)(こた)える。  ええ。——私も、大丈夫です。 「行きます」  馬腹を蹴る。  騎手に応え、馬が走りだす。  それはいつもの風の如き速さではない。  さりとて散歩ののろさでもない。  早く帰らねばとの焦りと、まだ帰りたくはないという心残りと、それらがないまぜになったような中途半端な(かけ)(あし)で、馬は最短の道ではなく、街壁をまわる外周路へと向かう。  (ほの)かなぬくもりをのせ駆けていく、その(あし)あとに白く雪が降りつもる。  彼の髪と同じ、忌み嫌われようと、(うと)まれようと、ただ()るがままの、混じりけのない白い雪が。  次々に(そら)から舞い降りる雪は、彼らの軌跡を覆い隠し、静かにその(うち)に包みこんでいく。  それは、無粋な誰かにふたりが()(とが)められることなどないようにと、神々が配慮したかにみえた。          ——終——
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