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ポストアポカリプスシンデレラ
ガイガーカウンターがガリガリと音を立てています。防護服を着たシンデレラは、もう一時間ほどこのゴミ山に居ました。最後の戦争が終わって数百年、この世界には死の灰が降り積もり続けています。
シンデレラは、数百年前に選ばれし人々が引きこもったシェルターの外側にある、廃棄物処理場で暮らしています。年の離れた姉が病気で死んでからは、ずっと一人でした。ゴミ山で食べ物や生活用品を探すのがシンデレラの生業です。
さて、今日のシンデレラは普段とは違うものを見つけていました。
剣です。
「……いきなりファンタジーみたい」
シェルターの中ではまだ、人々が営みを続けているようです。ゴミに紛れて様々な物資が投棄されますが――それは一見して、ゴミには見えませんでした。柄には宝石が埋め込まれており、諸刃の刀身は滑らかな光を反射しています。それが、地面に突き刺さっているのでした。
「綺麗だけど、使い道はないかなあ」
それはシンデレラが幼い頃、絵本で見たようないかにもな「つるぎ」でした。ここにはモンスターなんていません。この辺りにはシンデレラの他に人間もいないので、武器として使うこともありません。
でも、剣があんまり美しすぎて、シンデレラはつい手を伸ばしてしまったのです。
「――って、えっ!?」
束を両手で握って上にひっぱると、剣は想像より軽く勢いよく抜けて、シンデレラは後ろにひっくり返りました。
「いった……」
すると、尻餅をついたシンデレラの前で、勢いよく地面が「開いた」のです。
「……わあーっ! 出られたあ!!」
中から飛び出してきたのは、少年でした。
声変わりしたての掠れた声だったので、シンデレラは「少年」とみなしましたが、見た目は少女のような可憐さでした。抜けるように白い肌に、金糸のような髪が肩まで伸びています。
「あなたが助けてくれたんですね! 何とお礼を言ったらいいか!」
「助ける? いや、あの別に何も……」
「いいえ。外側から突き刺された剣が、ポッドのハッチを壊してしまっていたんです。中からはどうにもできなかったので、本当に助かりました!」
少年は興奮気味に喋っていますが、シンデレラは久しぶりの他人との会話に、戸惑うばかりです。それでもシンデレラは、ある重要なことに気が付きました。
「君、防護服着てないじゃん!」
「ぼう、ご、ふく?」
悠長に首を傾げている少年でしたが、今まさに命の危機に瀕しているのです。初対面とはいえ、目の前に刻一刻と被曝している人がいると思うと、シンデレラだって放っておけません。
「家に帰れば私の予備があるから! とりあえず急いで!」
「あ、すみません! 僕はお城に帰らないといけないんです。皆が心配しちゃう」
「お城?」
今度はシンデレラの頭上に、はてなマークが浮かびます。またファンタジーな単語です。
「申し遅れました。僕はこの国の第二王子です。式典なんかで見た顔でしょう」
「王子……ファンタジー極まるね。っていうか、ここ国なんてあったの?」
「え? いいえ、廃棄物処理場も我が国の大事な領土ですよ!」
「そうだったんだ」
シンデレラは新鮮に驚いていましたが、はっと我に返って少年――王子を問いただします。
「もしかしなくとも、君は中から来たのかな?」
「はい! 何かの手違いで外に出てしまったようなので、何とかして帰らないといけないんですよ」
「それにしては焦ってないね」
「はい。王子たるもの、このくらいでは心乱れません」
王子が太陽のようにニコニコしているので、シンデレラは一瞬見惚れてしまいました。自然と彼の力になりたいと思わされるのは、王子が美しいからかもしれません。
そして、何より興味を引くのは王子の来た「中」のことでした。
「じゃあ王子様。無事に帰る手助けをしてあげるかわりに、私をお城に連れていったり、できる?」
「もちろん! 僕からお招きする予定でしたよ!」
「そう……じゃ、帰り道を探そう。まずは防護服着てからだけど」
王子の返事を聞いたシンデレラはドキドキして、これから自分の身に起こることに期待を膨らませます。
そうして、剣を抜いて王子様の封印を解いたシンデレラは、一路お城を目指すのでした。
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